「乗り物にたくさん乗れて嬉しかったけど、心から楽しめなかった」
道志村で美咲ちゃんの運動靴が見つかった時には、ニュースに触れる前に長女には伝えた。
「わかった」と一言だけ言われたその反応に、不安な気持ちを察した。そんな長女にとっても、美咲ちゃんと一緒にキャンプ場にいたあの日から3年後の今日は、やり場のない気持ちを抱えているはずだ。
「美咲が天国で神様に守られて平安に過ごしていられるように毎日祈りながら、目の前にいる長女がこの現実に自分のペースで少しずつ向き合っていけるように側で見守り支えていきたいと思います。長女には、自分の人生を自分らしく過ごしていけるように、元の明るく元気で優しい普通の女の子に戻ってほしいと願っています」
長女に寄り添い続ける裏で、とも子さんはSNSの誹謗中傷にも苦しめられた。
心の傷口に塩が塗り込まれた“嫌がらせ”
「悲劇のヒロインぶるな!」 「募金詐欺か!」 誹謗中傷の急先鋒となった『怨霊の憑依』と呼ばれる謎のブログまで登場し、 「とも子の周りは薬物関係者」「美咲ちゃんの事件は臓器売買で海外まで連れ去られた」といった根拠のない話が並び、とも子さんの心の傷口に、塩が塗り込まれた。
「SNSで今まで言われたことのない言葉で嫌がらせや誹謗中傷やお叱り等のメッセージやコメントが殺到し、私達家族は美咲がいない悲しさ以外にもたくさん心を傷つけられ人間不信になってしまいました」
捨てる神あれば拾う神あり。
美咲ちゃんの捜索活動をはじめ、とも子さんは多くのボランティアに支えられながら、この逆境を生き抜いてきた。彼らへの感謝の気持ちを伝えるため、現場ではお菓子をプレゼントした。
「温かいお言葉をかけてくださる方、そっと見守ってくださる方、一緒に涙を流してくださった方、本当にたくさんの温かい方々に支えていただき励まされてこの3年間活動してこられました」
警察は現在も現場での捜索を続けている。だからまだ美咲ちゃんの遺骨や遺品は手元にないが、いつか戻ってきた暁には「守ってあげられなくて本当にごめんなさい。帰ってきてくれてありがとう。おかえりなさい」と伝えるつもりだ。
「天国で美咲に会える日まで神様からいただいたこの命を大切にし、美咲の分も長女と一緒に精一杯、このご恩をお返しできるように生きていきたいと思います」
美咲ちゃんがいなくなったあの日から3年、ようやくとも子さんは前を向いて歩こうとしている。
取材・文/水谷竹秀(みずたにたけひで)
ノンフィクション・ライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに、「アジアと日本人」について、また事件を含めた世相に関しても幅広く取材している。