背の高いアポロンのような男性
撮影が終わるころ、宮崎さんを迎えに、背が高くて白いとっくりセーターを着たアポロンのような男性がいつも現れる。小柄な宮崎さんとはとても対照的だった。
私とペコは、「なんでダックがあんな背の高いカッコいい人と……」といつも不思議で不公平に感じていた。その男性こそ、後にダックと結婚する仲代達矢さん。「モヤ」、と仲代さんを愛称で呼びながら駆け寄っていた。
養成所の有望な後輩だった仲代さんを射止めるなんて、ダックも先見の明ありよ。でも、真剣な恋だったんだと思う。多才なダックはよく台本に仲代さんの似顔絵を描いていた。
今では考えられないけど、このころの私は体重が33~34kgしかなくてヒョロヒョロ。心配な存在だったのだろうか、NHKの職員さんたちは、ことあるごとに私のことを気にかけてくださった。
特に、当時芸能副部長だった佐藤邦彦さんには本当にお世話になった。奥さまは歌手の奈良光枝さん。佐藤さんは、フランスの喜劇俳優のフェルナンデルに顔が似ていたから、私とペコは「フェルナンデルのおじさま」なんて勝手に呼んでいた。
クリスマスの日。フェルナンデルのおじさまのところへ行くと、「君たちよく来たね。今日はクリスマスだからケーキを買ってあげるよ」なんて言ってくださって、うれしかったなぁ。ところが! あの時代、私たちは安月給だったから、ペコったら、「いいえ、現金でいただきます」なんて言ったの。ア~笑っちゃう。
横浜のいとこ夫妻には、ホントによくしてもらった。奥さんが北海道出身だったから、朝食に北海道のプリプリしたたらこなんかが出てね。伊豆出身の私はたらこが初めてで、ほっぺたが何度落ちたことか。いとこ夫妻と私とで森繁久彌さんの『夫婦善哉』という映画を見に行ったこともあった。そんな些細な日々が、新人時代の私にどれだけ活力を与えたか計り知れない。
もう60年以上前の出来事だけど、青春時代っていくつになっても鮮明に覚えているものね。人さまのご恩も。
〈構成/我妻弘崇〉