目次
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ー 会わない29年があったからこそ、今がある
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ー みんなが家庭を持ち、葛藤し、戦ってきた

「僕の年代くらいだと、人生に対してのいろんな痛みや苦みがわかるようになってきていて。この『追想ジャーニー』の主人公を見て“わかるよ”と思う人はたくさんいる気がします。

 生きることってやっぱり苦しみも、後悔もある。だけどこの先も生きていく。夢を捨てずに生きていくことは素晴らしいというメッセージをたくさんの人に届けたいし、この作品に励まされる人はたくさんいると思います」

 48歳、売れない俳優の文也(高橋和也)。見知らぬ高校生から渡されたメモには謎の“退行睡眠”の案内が。いぶかしく思いながらも店に足を運び、催眠術をかけられると……出会ったのは岐路に立つ18歳の自分(藤原大祐)。

「脚本を読み、直感的に“この作品は面白くなるぞ”と思いました。そのときは、自分が何にこれほどまでに興味をひかれ、面白がっているのかはわからなかった。とにかく準備期間は短く、セリフの量は膨大。おじさんは覚えるのになかなか時間がかかるので(笑)。厳密には4日間で撮りましたね。非常にタイトでした」

 “あのとき、あっちを選んでおけば” “あのときに戻れたら”。そんなふうに後悔し、妄想してしまう人生の瞬間は誰にもある。やり直すことで文也の人生が新たに輝き始めるのかと思いきや、

「“おまえ、ここ間違えるな”って教える立場だったはずが、いつの間にか、18歳の自分に“おじさん何やってんだよ!”と叱咤(しった)され、48歳の文也の問題点がさらけ出されていく。その過程は非常に面白かったですね」

 特に印象深いと語るのは、元妻と暮らす娘との再会シーン。実生活での高橋は4男2女の父親だが、

「あのシーンでは娘役の子と、自分の実の娘が重なってしまったというか。正直、俺の人生に後悔なんてないってずっと思っていたんだけど、“娘にあんなことを言ってしまった”という親としての後悔があのシーンでは湧き上がり、感情が抑えられなくなり、涙があふれて仕方なかった。

 演じている自分と、実際の自分の人生が見事に重なる瞬間というか。昔の演劇人はそれを“立ち聞き”と呼ぶらしいんですが、演技を一切忘れ、何もしなくても役になりきってしまう。そんな体験ができたことは俳優としてすごく幸せな瞬間で、至福のときでした」

会わない29年があったからこそ、今がある

 48歳の文也のように“退行睡眠”の機会があったら、体験するかと尋ねると、

高橋和也 撮影/齋藤周造 
高橋和也 撮影/齋藤周造 

「いや、実際の俺はやらないですよ(笑)。あははは。映画の面白さっていうのは、空想できること。あたかも現実の世界のように表現ができる。だから、映画の世界では“飛べる”というか。そこだと思うんですよね」

 劇中では、18歳以降の文也のいくつかの人生の分岐点を巡っていく。高橋にとっての人生の分岐点を聞くと、

最初に男闘呼組が活動休止になって、離れることになったときが僕の分岐点だった。

 この作品が言わんとしているように、その分岐点があるから、今の自分があるって思いますね。再結成も、その分岐点があったからこそ。(メンバーと)会わない29年があったからこそ、今があるって思います」