一期一会だと思って臨みました
クライマックスシーンの剃髪では、実際に髪を剃り上げた。
「抵抗はありました。剃った後、頭の形がいびつだったらどうしようとか考えました。豊川さんは“お母さん(富司純子)に消えない呪文とか彫られているんじゃない”とか言うし(笑)。
でも一期一会だと思って臨みました。撮影では、寂聴さんになっているのか、初めて髪を剃る私自身が戸惑っているのか。ウキウキと不安が入り乱れている感じでした。芝居に集中していたかというと、そうできなかった気もします」
“お祭りみたいで異様な雰囲気”というなか、ぶっつけ本番で撮影された。
「直後は、無事に撮り切れてよかったとしか思わなかったけど、数日後に気持ちがすっきりしているのに気づきました。自分自身でも不思議でしたが女なのか男なのかわからない感覚になり、(外見など)構う必要がないと思えました。人生100年時代といわれるなか、50歳を前にしての剃髪はリセットされた気分です。エネルギーが湧いて前向きにもなれました。雑念が取れてすっきりするので、癖になっちゃいそうです(笑)」
辞めたいと思ったことはないです
女優を志して1992年に文学座に入団したが4年後に退団。映像でも活躍の場を広げ、映画『赤目四十八瀧心中未遂』『ヴァイブレータ』で注目され、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。2010年の『キャタピラー』では35年ぶりにベルリン国際映画祭の最優秀女優賞を受賞し演技派女優の名を確固たるものにした。
「この40年、辞めたいと思ったことはないですね。舞台だけでなく映画やドラマ、いろんな世界を見たいと思っているのが今も続いています。
これからも今回の作品のように50代女性が主人公になる映画にまた出会えたらいいなと思っています」
本作では撮影前に寂聴さんに手紙を出したが、対面は叶わなかった。
「映画を見てどんな感想をおっしゃるのか知りたかったです」