しかし、昨年3月に吉右衛門さんは公演後に訪れた飲食店で倒れ、救急搬送。以後、意識は戻らず同年の11月にこの世を去ってしまう。

「吉右衛門さんの死後、白鸚さんは沈痛な面持ちで“今、とても悲しいです。たったひとりの弟ですから”と追悼コメントを発表。これまで両者は、プライベートで積極的な交流は少なく、一部では不仲説なども流れていましたが、白鸚さんの弟に対する愛情がうかがえましたね」(同・松竹関係者)

 吉右衛門さんの一周忌を迎え、これまで耐えてきた白鸚さんの精神面も心配されるところだ。

体調を気遣って“隠居するべき”の声

「来年の4月からはコロナ禍で中止になった、『ラ・マンチャの男』の再公演も始まりますがどうなることか……。白鸚さんの後援会の内では、体調を気遣って“高麗屋を息子の松本幸四郎さんに任せて、隠居するべきでは”という意見も囁かれているほどです」(同・松竹関係者)

 進退が問われる白鸚だが、彼にはまだ叶えたい夢が残っているという。

「白鸚さんはこれから新たに歌舞伎座で『勧進帳』の弁慶を演じたいと考えているんですよ」(高麗屋に近しい人)

『勧進帳』とは、鎌倉時代に都を追われた源義経と家臣の弁慶一行が、さまざまな策を用いて関所を突破しようとする姿を描いた演目。

「主人公である弁慶役は公演時間のおよそ1時間15分の間、出ずっぱり。大声を出しながら激しく動くシーンもあり極めてハード。特に“飛び六方”と呼ばれる、片足で跳ねながら花道を去る場面は、かなりの足腰の力を必要とします」(前出・松竹関係者)

 白鸚が最後に弁慶を演じたのは2021年の4月。その際は、息子の幸四郎と1日交代で乗り切っている。

「年老いても『勧進帳』に出演するというのは、もともと吉右衛門さんの夢だったんですよ。生前の吉右衛門さんはことあるごとに“80歳で弁慶を演じたい”と語っていましたが、77歳で亡くなってしまいました。亡き弟が果たせなかった夢を、兄である自分が叶えたいと考えているそうです」(前出・高麗屋に近しい人)

 弟を亡くした白鸚は悲しみを断つために、80歳にしてなお新たな挑戦に向かおうとしている─。