ドラマ全盛の90年代のような盛り上がり方
そして、主人公らキャストが20代で固められているのも、特にゴールデン帯放送の他作品にはなかなか見られない点だ。川口春奈は27歳、目黒蓮は25歳。ふたりの高校時代の同級生役である鈴鹿央士は22歳だ。
ちなみに、今クールの“火10”枠の『君の花になる』(TBS系)では、ボーイズグループがトップアーティストになるという夢に突き進む中で、そのセンターを務める弾役の高橋文哉(21歳)と、本田翼(30歳)演じる元高校教師で寮母あす花との恋模様が描かれている。
このように、主人公のアラサー女性と年下男性との組み合わせも近年よく目にする設定。『silent』のような20代同士という掛け合わせが、いまはむしろ新鮮に映る。
最後に、なんと言っても本作が唯一無二である点は、恋愛ドラマなのに考察ブームを巻き起こしていることだ。これはひとえに脚本の妙、台詞の妙、演出の妙によるところが大きいと言える。
脚本を担当したのは、なんと本作が連ドラ脚本執筆デビュー作となる弱冠29歳の新人・生方美久。しかも、本作は近ごろ増えているコミック漫画原作ドラマではなく、完全オリジナル作品なのだ。
暗示的なモチーフが、高校時代や過去の記憶と現在を行き来しながらさまざまなシーンで登場し、時間を超えて種明かしされ伏線回収されていくのが鮮やかで美しい。紬のイヤホンが完全に壊れた時期と、想の失聴したタイミングがリンクしていたり、2人が高校時代に聴いていたスピッツの名曲『魔法のコトバ』にある「また会えるよ 約束しなくても」という歌詞の一節が、このあと別れ再会を果たす彼らの未来を示唆しているかのようであったり。
“幸運”のシンボルとされるてんとう虫が飛び立ったかと思いきや、所変わって図書館で図鑑の表紙として用いられたりと、何度視聴しても新たな発見や気づきがあり、視聴者に思わず“語らせたくなる”ストーリーが光っている。
こういった点も、SNSや見逃し配信と相性がよく、Z世代の間でも話題を呼んでいる理由と言えるだろう。本作をきっかけにドラマをリアタイ(リアルタイム視聴)して、その感想を周囲とシェアし合うという、1990年代のドラマ全盛期のころのような“ドラマの見方”が、再びできあがっているようにも思える。
今夜(12月1日)の『silent』はいよいよ佳境に入る第8話。このあと、どんな最終回を飾るのか、どこまで記録を塗り替え、令和のお茶の間とドラマの距離感を近づけてくれるのか。“ロス”になってしまうのが今からすでに怖く寂しいが、しかと見届けたい。
元出版社勤務。現在、都内OLときどきライター業。得意ジャンルはテレビドラマで、三度の飯より映画・ドラマが好きなアラサー。