今の充実を達成するための10年だった
実は幼いころの夢が「船になりたい」だったという忍。
「どうして船だったのかなぁ……わかんないんですね(笑)。でも好きすぎて、自分の中でなくてはならないパートナーみたいな感じなんです。中1から石垣島の書店で船の情報誌を買ってたくらいですから。好きな理由ですか?
普通、陸上の乗り物だと真っすぐ行く、曲がる、バックする、車庫に入れるくらいだけど、船はその日の天候や風、潮の満ち引き、波のはじけ方なんかでどう操船するかが変わってくるし、一応航路は決まっているけど自分が思い描いたラインを進める。乗り物の中でいちばん自由で、ロマンがあるところかな」
20歳のころ、忙しい時間の合間を縫って船舶免許を取得した忍。美しい八重山の海へゲストを乗せていく船は購入から20年がたち、老朽化が目立ってきたため、新しい船の購入を考えていたところ、新型コロナによって2020年に2か月半宿を閉めることを余儀なくされた。
「その間、すっごい葛藤してましたよ……久しぶりに走ったりとかして。東京で走っていたときと、同じ気持ちでしたね。仲間内でお金を集めて買えば、という声もあったんですけど、それだとこの10年間に『民宿みやら』へ来て、クルーズを楽しんでくださったお客様に失礼になるなと思って。
それでいろいろと考えて、クラウドファンディングに挑戦してみようと思ったんです。僕は人にお願いするのが苦手な性格なので、心の整理に時間がかかってしまって……それでもうホントに文章もすげぇ考えて、納得いかないと走って。走りながら言葉を思い浮かべて、思いを真っすぐ伝えるにはどうしたらいいだろうと考えました」
目標金額は3900万円。額が額だけに、周囲から心配されたという忍さんだが、なんと期日ギリギリで見事に目標を達成!
「僕は諦めてなかったし、絶対に大丈夫と言い続けました。それで周りも応援してくれて、それがパワーになって。だから今回諦めないことの大事さを改めて感じましたね。1072人の方が応援してくださったので、本当にみんなの思いで達成したという感じですね」
今は来年やってくる新しい船のお披露目をどう皆と盛り上げられるか、といううれしい悩みを抱えているという忍。では10年間でつらかったことは?
「つらかったこと、う~ん……10年振り返って、つらかった以上に今が充実しているので、パッと出てこないんですよね、おかげさまで。今の充実を達成するための10年の歩みだったのかな、と思いますね。
今、自分の中で大事にしているのは、ルーツやこの世に誕生させてくれた親だったりといういちばん最初の始まり、今どうしているか、そして人生の最後にどうなるか……そのすべてに感謝することなんです。地に足をつけ、人としてしっかり生きていければいいですね!」
<取材・文/成田 全>