実は当時、彼は壁にぶつかっていた。自伝的エッセイ『罪と音楽』には、ブームが去って音楽的に行き詰まり、全盛期の多忙かつ贅沢すぎる生活で人間的に壊れかけていたとある。そんななか《ふたりで過ごすことが何よりも安らぎだった》《桂子に惹かれていく自分を止めることができなくなっていた》という。彼女の父にも温かく迎えられ「人生の師匠」とまで尊敬するようになった。
ひとりの女を愛し続けることができない小室哲哉
ちなみに、彼は鯉のぼりもさかなクンも「怖い(笑)」と言うほどの魚嫌い。ふぐ料理人でもある義父は、彼にも食べられる魚料理を工夫してくれたという。
結局のところ、彼は刺激よりも安らぎを求めたのだろう。そのためには、芸能界チックな「ファミリー」ではなく、現実的な「家族」が必要だった。2008年に著作権をめぐる詐欺事件で逮捕された際も、妻は夫を献身的に支えたようだ。前出の本には、
《いろいろな感情を胸の中に押し込め、できる限り明るく振る舞ってくれた》
とある。家族の絆によって、彼は救われたのだ。
にもかかわらず、'18年には看護師との不倫が報じられ、会見では、妻の体調について赤裸々に語った。'11年にくも膜下出血で倒れたことによる後遺症で、コミュニケーションもままならないというものだ。
看護師との親密さの背景には介護疲れもあったのかと、という見方も出たが、KEIKO側が反発。順調に回復しているし、小室は介護をろくにしていなかったと指摘した。離婚成立は、その3年後だ。
実際、彼女の病気も影響しただろうが、それ以上に彼の「病気」のほうが問題だったかもしれない。ひとりの女を愛し続けることができない、という一定数の男が持つ厄介な「病気」だ。そういう男と出会い、結婚までしてしまったことで、KEIKOの人生は数奇なものとなった。
「globe」というユニット名は、地球に由来する。そのスケールに比べたら、ひと組の男女などちっぽけな存在だが、繰り広げられる愛憎劇は底知れないブラックホールのようでもある。