厚生労働省が「がん検診」で推奨する対象年齢は

 このような事態を受け、中山先生も所属する厚生労働省のがん検診検討会では、令和元年、すべてのがん検診について特に推奨すべき対象年齢として、69歳を上限とする中間報告書をまとめた。

 それに従うか否かは自治体の判断にまかされており、対応はそれぞれ異なる。また、希望者の受診を拒否するものではないため効力には限界が。そもそも高齢者が検診を受けるリスクが知られていないという現実もある。

「先進諸国では、すでにがん検診が高齢者にもたらすリスクの検討が進んでおり、すべてのがん検診について対象年齢に上限を設けているところがほとんど。高齢者の健康状態は個人差が大きいですが、ご自分の体力や体調と、検診の利益と不利益を考え併せて受診を決めていただきたいと思います」

検診別シニアの受け方

 がん検診事情は、がん種によって異なる。ここでは特に患者が多い婦人科がんである乳がんと子宮頸がん、女性の患者が増えている大腸がんの検診について取り上げ、注意すべきことを聞いた。

乳がん検診

 乳がん罹患率は40代からぐんと高まり、20~30代は低い。そのため、40歳から2年に1回の受診が推奨されている。

「高齢者は、発見された場合にリスクの高い手術や抗がん剤など積極的な治療を行うかも考えておきましょう」

子宮頸がん検診

 子宮頸がんは、20歳から2年に1回、細胞診を受けるよう推奨されている。

「これまでの数々の研究で、69歳まで子宮頸がん検診を受けていれば、その後も死亡減少効果が持続することがわかっています。つまり、70歳以降は検診を受けなくても、子宮頸がんが死に至るほど進行する前に天寿を全うできるということです」

大腸がん検診

 男女共に40歳から便潜血検査を、その結果が陽性であれば大腸内視鏡検査を受ける。

「高齢のために内視鏡検査によるリスクが大きい場合は、便潜血検査を卒業することも考えてください」

 高齢の親が漫然と受け続けているケースもあるだろう。

「悩ましいのは、受けない人と受けすぎる人の二極化です。健康意識の問題だけでなく、仕事や家事に忙しい40代、50代や、職場検診がない非正規雇用や主婦の人は、がんの好発年齢であるのに検診受診率が低い。一方で時間に余裕ができた高齢者が、不利益が上回る検診を受け続けてしまうという実態があるのです」

 本末転倒の結果を招かないために、検診の受け方を考え直したほうがいいようだ。

教えてくれた人は中山富雄先生

中山富雄先生
中山富雄先生

 国立がん研究センター検診研究部部長。がん予防、検診に関する研究、提言に携わる一方、情報をわかりやすく伝える活動に尽力している。

<取材・文/志賀桂子>