──5類にすれば、どの医療機関でも対応でき、医療逼迫が改善されるという声も聞かれます。

岡:2類相当では、入院患者の受け入れは感染症指定医療機関に原則限られているのですが、実は現状はかなり緩和しており、指定医療機関以外でもすでに感染者を受け入れています。もちろん、その縛りがない5類にすれば、建前上はどこでも対応可能となっています。しかし、私はそれに懐疑的です。

 5類には季節性インフルエンザのほかに、HIV感染症・エイズ (後天性免疫不全症候群)、破傷風、急性脳炎などが属しますが、これらの感染症が今までどの医療機関でも診られていたでしょうか。専門医がいないなどの理由で診療されないことがあった現実からすると、新型コロナも同様に受け入れを拒む医療機関は多いと思います。

 そもそも、感染症法は「緊急その他やむを得ない理由があるときは知事が適当と認める医療機関に入院させることができる」としており、実際、今は指定医療機関以外の病院でも新型コロナの患者を診療しているのは前述の通りです。

 一方で、専門医の不足やクラスター発生の恐れから新型コロナ患者を受け入れない医療機関も多く、二分化しています。5類になったら新型コロナの特性が変わるというわけではないですから、これまで対応してこなかった医療機関が診療を速やかに行うようになるとは考えられません。

5類で患者側に生じることとは

──どんな弊害が予想されますか。

岡:まず患者さん側から見た場合ですが、5類になると行政による病床確保や入院調整がなくなるため、自分で受診先を見つけなければならなくなり、今まで以上に受診の際には混乱が生じる可能性があります。

 また、治療費が公費から1割~3割負担になるため、感染者が検査や治療を控えて受診が遅れ、重症化につながる恐れもあります。現在、無料で行われているワクチン接種も、有料になれば接種率が低下するでしょう。

 感染者の自宅待機期間がなくなるという話も出ていますよね。これまでは医師として、感染したら周囲にうつさないためにも「7~10日間休みましょう」と言ってきましたが、これからは強制力がなくなりますから、翌日出歩いてもとがめられません。だから、隠れた感染者が増えて感染する機会が増えてしまうでしょう。自分は感染したくないという人は、自分で自分を守るしかありません。

 そして病院側から見た場合、これまで新型コロナ病床を確保していた医療機関には政府からの補助金が給付されていましたが、5類になることで給付が打ち切りになれば、民間病院を中心にほかの病気を診るために病床を埋めてしまい、積極的に新型コロナの診療を行う医療機関は減るでしょう。もともと病院の黒字経営には、100%近い病床稼働が要求されているのです。