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ー 世の中になじんだ「キモい」のバランス

 

 アンガールズ田中卓志が結婚した。めでたい話だが、世の中的にはちょっとした事件でもある。

『アッコにおまかせ!』(TBS系)では、番組欄に《アンガ田中結婚・寒波・強盗事件など今週のニュースを一気見!》《新田真剣佑・眞栄田郷敦・キスマイ横尾渉も結婚》という紹介文が。寒波や強盗事件と並ぶ衝撃であり、同じ結婚でもイケメンの2世やジャニーズよりもニュースバリューは上というわけだ。

 ちなみに、アンガールズのブレイクは2004年。『爆笑問題のバク天!』(TBS系)の芸人発掘コーナーでのことだ。『エンタの神様』(日本テレビ系)には出られないような芸風、それでいて、審査員に1分間飽きずに見てもらえないと放送されないという条件のコーナーで、彼らは最初の成功者となった。

 そのシュールで脱力的な笑い、特に「ジャンガジャンガ」という決めポーズの意味不明なおかしさは絶品だった。

 ただ、世間はその魅力を「キモかわいい」という捉え方で消化することに。実はこれ、芸人にとっては危険なことでもある。「キモかわいい」の賞味期限は短いのだ。

 1990年代後半に流行ったダンシングベイビーしかり、その後のせんとくんやこびとづかんしかり。飽きられるのも早く、この手のもので長続きしているのは、プロ野球・中日ドラゴンズのマスコット、ドアラくらいだろう。

世の中になじんだ「キモい」のバランス

 ではなぜ、田中とドアラは息が長いのか。ドアラにはバック転からの宙返りという得意技があった。一方、田中も『24時間テレビ 愛は地球を救う』(日本テレビ系)の100キロマラソンを余裕でこなすような運動能力の高さを持っている。

 また、ドアラがマスコットなのに本を書いたように、田中も『逃走中』(フジテレビ系)などで高学歴芸人ならではの賢さを発揮してきた。キモかわいいに加えて、キモカッコいい要素もあるのだ。

 ただ、このあたりのバランスは難しい。「キモい」要素が失われてはおしまいだからだ。その点、田中はひょろっとした容姿や、なよっとした言動を維持し続けている。1億円の貯金がありながら、苔を育てるのが趣味というギャップも有効だ。さらに、ライバル視する芸人として、

「今、クロちゃんが怖いんですよ。(略)オレも気持ち悪いけど、心底気持ち悪い」

 と、発言。ほどよく「キモい」自分の立ち位置をアピールしたりもした。

 そんなこんなで、今では『呼び出し先生タナカ』(フジテレビ系)という冠番組まで仕切る存在に。これはかつて、イグアナ芸などで世に出た“元祖キモ系”のタモリが成し遂げたことに似ているが、タモリの場合は『笑っていいとも!』(フジテレビ系)が大きな転機となった。

 これに対し、田中は転機といえるほどの転機はなく、ゆるやかに自分をアップデートさせてきた印象だ。20年近く、それをやり続けてきたおかげで、彼のほどよく「キモい」バランスは世の中にすっかりなじんでいる。

 今回の結婚もそれなりのインパクトとはいえ、相手が一般女性というのもあって、夫婦生活が想像しにくい。イメージを激変させるようなことにはならないだろう。

 気になるのは、そのバランス感覚がどこから来ているかということ。そういえば、お笑いを選ぶ前、田中は建築士を目指し、広島大学工学部を卒業した。センター試験の二次試験の物理は満点だったという。

 芸能界での立ち回り方にも、物理の力学みたいなバランス感覚が役立っているのだろうか。

ほうせん・かおる アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)