木村拓哉と時代劇の相性

 そもそもキムタクと時代劇の相性は良いとは言い難い。まだSMAPのメンバーだった2014年に2夜連続で放送された主演ドラマ『宮本武蔵』(テレビ朝日系)の世帯視聴率(当時の基準)は14.2%と12.6%。大作で世帯視聴率が取れたころにしては平凡な数字だった。評価も賛否分かれた。

 フジテレビ系が2001年に放送した『忠臣蔵1/47』では主人公に据えられた堀部安兵衛に扮した。この作品は23.9%の高視聴率を獲得したものの、忠臣蔵が人間ドラマなのは知られている通り。合戦シーンはないし、刀を使う場面も少なかった。

 山田洋次監督(91)による『武士の一分』(2006年)は当たった。推定10億円程度の製作費で、興収は41.1億円。毒味役の貧乏武士・三村新之丞に扮したキムタクも高い評価を得た。ただし、これも山田監督が人の生き方を説いた人間ドラマなのだ。清貧を貫いた新之丞と妻・加世(壇れい)との夫婦愛の物語でもあった。

 キムタクに信長のような武将や武蔵のような剣豪が似合うのか、50代以上女性のファンがそれを望むのか。制作者側はあらためて考えるべきなのではないか。

 キムタクは4月10日からフジの新しい月9『風間公親-教場0-』に主演する。キムタク演じる冷徹で厳しい教場の教官・風間公親が、いかにして生まれたかが描かれる。刑事指導官時代が舞台になる。

 この作品のキャスティングを見ると、フジはキムタクのファン層をよく理解していることが分かる。共演はシングルマザーの若手刑事役で新垣結衣(34)、風間の指導を受ける新人刑事役で染谷将太(30)、同じく新人刑事役で赤楚衛二(29)ら。キムタクの黄金時代を知らない若者にも魅力的な布陣に違いない。

 キムタクを座長にしながら、その負担は軽くした配役とも言える。よくキムタクと比較される故・田村正和さんも50歳を過ぎると、フジテレビ系『さよなら、小津先生』(2001年)など、自分の負担が軽い作品に出演した。年を重ねてからも10代~30代の支持を得るのは誰だって難しい。

 一方、『レジェンド&バタフライ』はキムタクがほぼ出ずっぱり。綾瀬の見せ場もあるが、ワンマン映画に近い。すると、キムタクのファン層を取りこぼすと、ヒットは難しい。

取材・文/高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)放送コラムニスト、ジャーナリスト。1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立。