NHKが果たしてきた役割

 NHKの幅広いジャンルの番組を、横断的に担当してきた前出・堀尾さんは、「テレビというのはリアルタイムの希少性もあると思います。そういう意味でも、NHKが果たしてきた役割は大きいでしょう」と語る。

「紅白歌合戦、トリノ、アテネオリンピックのメインキャスターなどをしてきましたが、忘れられないことの一つに、午後10時台に放送していた『NHKニュース10』があります」

NHKニュース10』は、当時、同時間帯で快進撃を続けていた久米宏が司会を務める『ニュースステーション』(テレビ朝日系)に対抗すべく生まれた報道番組だった。

「'01年、アメリカ同時多発テロ事件が発生しました。実は、リアルタイムでこのときの映像をお伝えしたのはNHKだけなんですね。テレ朝さんも、映像が間に合わなかった。前述した世界規模のネットワークを持つNHKだからこそ、ビルに飛行機が衝突する……あの映像をリアルタイムで報道することができた」

 ケネディ暗殺の映像をいち早く放送したのもNHKだった。こうしたアーカイブ映像が数多くあるからこそ、高クオリティーなドキュメンタリーが生まれることは間違いない。「NHKにしかできないことがあるからこそ、多くの視聴者の記憶に残っていると思う」。そう堀尾さんは語る。

「どんなにメディアが多様化したとしても、クオリティーという点に関してはNHKは素晴らしいものを持っている。その場のウケを重視するのではなく、民放とは差別化した質の良い番組を目指してほしい。テレビが選ばれなくなってきている時代だからこそ、NHKは何を作るのか? 迎合せずに作り続ければ、きっとこの先も視聴者の皆さんの胸に響く番組は生まれると思います」

 昨今は受信料の賛否など、何かと周辺が慌ただしいNHK。雑音を吹き飛ばすくらいの素晴らしいドラマや番組を期待したい。

堀尾正明(ほりお・まさあき)●1955年生まれ。1981年にNHKへ入局。『スタジオパークからこんにちは』『100年インタビュー』『サタデーサンデースポーツ』など数々のNHKを代表する番組の司会を担当。'08年、フリーに転身し、テレビを中心にキャスターとして活躍している
竹山洋(たけやま・よう)●1946年、埼玉県生まれ。早稲田大学文学部卒業。テレビ局演出部を経て、脚本家に。主な作品に、連続テレビ小説『京、ふたり』、大河ドラマ『秀吉』、映画『四十七人の刺客』ほか多数。紫綬褒章受章(2007年)、旭日小綬章受章(2017年)

(取材・文/我妻弘崇)