「SPの動きに予定調和感がある」「事件映像のカメラワークが映画みたい」「火薬量が少なすぎる」「事件後に演説を続けている」「襲撃の夜、予定通り散髪に行っている」
ましてや「安倍首相襲撃の山上容疑者と同一人物である」「はたまたクローンである」「いや、犯人は岸田の隠し子だ」なんて声まで聞こえるくらいだから、さすがに荒唐無稽というほかない。
こういった発言の主は、何か天変地異が起こるごとに安倍のせいとのたまう、顔の見えないネット住民だけではない。
参政党役員ですら、「こうした事件があっても、午後のスケジュールはそのままとの事。事件そのものが支持率上げのための仕込みかもと疑ってしまうのは私だけ?」とツイートし炎上する始末なのだ。
陰謀論に傾倒する人に多い傾向としては何があるのか。インターネットやネット保守などを中心に、社会・政治・サブカルまで幅広く執筆評論活動を展開する、古谷経衡氏は、自著『日本を蝕む「極論」の正体』 のなかでこう語っている。
<そもそも極論はどのように発生するのだろうか。ごく簡単に言えば、競争のない閉鎖的な集団や組織から極論は常に発生する。外部から見えづらい、つまり第三者から監視・監査されない「内向き」の組織や団体の中での物 言いは、次第に極論となり沸騰してくるが、その内部にいる人間たちには正論として信じられてしまう>
無論、ここでいう極論は、本件における「陰謀論」を指していると考えていただいて差し支えない。陰謀論者は、自分たちの信念に基づいた情報のみを探し、それ以外の情報や反証は往々にして無視してしまう。
陰謀論を信じることで不安を解消する人も
陰謀論が生まれてしまう人々の側面を、都内勤務の精神科医はこう語る。
「陰謀論に傾倒する人は、自分自身や自分の周りの状況をコントロールできないという不安を抱えている場合が多いです。陰謀論を信じることで、自分たちの状況や社会の出来事を理解できるようになり、不安を解消しようとする傾向があるんです。また、自分自身に自信が持てず、自己肯定感が低い人も多いように思います。自分たちが知っている特別な情報や洞察力を誇示し、自己肯定感を高めようとする傾向があります。陰謀論に共感することで自分自身を特別だと感じることができ、それが自己肯定感を高めることに繋がるということもあるでしょう」
陰謀論も、また社会が生んだものとは皮肉なものである。