結婚を誓ったトニーと連絡が取れないままに

「観光案内所に電話をかけて『こういう人がそこにいませんか?』と何度も尋ねたけれど、『そんな人いない、わからない』と言われてしまいました。

 手紙も書いてみたけれど、彼は海の上にいるので手元に届くまで時間がかかる。入院は1か月以上に及び、結局その間トニーとは連絡が取れないままでした」

 アメリカ行きの夢は消えた。失意のなか横須賀のアパートに戻り、『マジック』でシンガーに復帰する。

「夜は『マジック』で歌い、シンガーの仕事がない日は横須賀基地近くのハンバーガーショップ『アンディーズバーガー』でアルバイトを始めました。アンディーと呼ばれていた日本人のお兄さんが経営するお店で、常に海軍の人たちでにぎわっていましたね。

横須賀『アンディーズバーガー』で働いていたときのシンシア。トニーと連絡が取れない状況のなか、ここで黒人男性のフィルと出会う
横須賀『アンディーズバーガー』で働いていたときのシンシア。トニーと連絡が取れない状況のなか、ここで黒人男性のフィルと出会う
【写真】横須賀のバーガーショップで働いていた時のシンシアが綺麗

 そこの常連だったのが海軍のフィル。いつもニコニコしていて、すごく優しそうな人だな、というのが彼の最初の印象でした。どうやらフィルは私を目当てに店に通ってきていたようです。「一緒にハンバーガーを食べに行かない?」

 というのが、フィルのデートの誘い文句。私はハンバーガーショップで働いているというのに、おかしいですよね」

 トニーとのつらい別れを経験し、新たな出会いを求めていた。そんななか現れたのが、同じ海軍で働くフィルだった。初デートからすぐ付き合いが始まる。

「フィルは2つ年上の23歳。背が185cm近くあって、がっしりしていて、やはり基地のバスケットボールチームに入っていました。フィルもディスコが嫌いで、お酒も全然飲まないまじめなタイプ。

 ただフィルは音楽が好きで、私が『マジック』に出る日は店に来て、カウンターにひとり座ってじっと聴いていることがよくありました。彼は当時趣味でベースを弾いていて、後にバンドで演奏するようになります。

 音楽は私たちの唯一の共通点で、そこは娘に受け継がれたのかもしれません」(次回に続く)

<取材・文/小野寺悦子>