かもめんたる・岩崎う大が、注目のお笑い芸人の今後を予想する連載企画。今回の芸人は蛙亭。
強さの秘訣は陰で暗躍する中野の存在
蛙亭は、かわいらしい雰囲気の中に陰を感じさせるイワクラと、ぽっちゃり体形の中野周平の男女コンビで、もともとは、そのクレイジーな設定のコントが評価されて、頭角を現しました。
キングオブコント2021のファイナリストになる前から少しずつテレビの露出も増えていたので、売れっ子若手芸人として認識されている方も多いと思います。最近では、漫才コンビ、オズワルドの伊藤君とイワクラが交際を公表していたりと話題の多いコンビでもあります。
蛙亭の軸であるコントは非常に世界観が強く、ブラックな要素を含んだ、メッセージ性の高いものが多いのが特徴です。
ネタの制作者であるイワクラの思想がこれでもかと反映されたネタは、笑い以外の恐怖や人間として生きることの悲しさなどを見る者に喚起させる力があります。
ここで、ひとつ、僕が大好きな蛙亭のコントを紹介したいと思います。それは、ある若い女性がおじさんとホテルでピロートークをしているシーンから始まります。このときの中野演じるさえないおじさんのキャラが女の子に上から目線で絶妙に気持ち悪いのですが、コントの肝はそこではなく、その後にあります。
このおじさんが実は違法駐輪の自転車を撤去する業者の人で、女の子はおじさんに甘えながら、
「今日はこの後どこで仕事なの?」
と、自転車を撤去する場所を聞き出し、その情報を本当の彼氏に流して、彼氏が自転車撤去を免れるように助けているというものです。
女という武器を使って、自転車撤去の場所を聞き出すという、この設定は、ブラックさとバカバカしさが奇跡のような塩梅で共存する素晴らしいコントだと僕は思います。
そして、それは蛙亭というコンビの魅力そのままで、ブラックな要素が、ちゃんと笑いの中に収まっているそのバランスに彼らの魅力があります。
また、ネタの制作者でありボケのイワクラの能力に目が行ってしまいがちですが、実は、陰で暗躍しているのが中野なのです。これが蛙亭の最大の神秘であり、強さの秘訣なのです。
これは、僕も彼らと一緒に仕事をするまでは気づかなかったのですが、中野は非常に優秀な芸人で、自分の立ち位置をブラさずに、自分の力量の中で最大限のパフォーマンスをするのに長けています。
無理に目立ちもしませんが、決して転ぶことはない、ある種、最強の男が中野なのです。
最近、中野はイワクラの書いたネタをブラッシュアップして、勝負ネタに昇華させていたりもするそうで、
「それができるならおまえもネタを書けよ」
と言いたくなるのですが、彼の中でそこは自分の領分ではなくイワクラの分野だと、しっかり確信を持っているようなのです。
イワクラは、よく中野をディスったりもするのですが、一方で本当にその能力を信頼もしているようで、非常に強いコンビの絆を感じます。
これは僕のイメージなのですが、中野はイワクラという、稀有な才能を自分に寄生させ、宿主として利用されている振りをし、その実、しっかり共生しているのです。
そして、恐らく本当に得をしているのは宿主の中野なのではないかと僕は踏んでいます。「負けるが勝ち」とほくそ笑む中野と、悔しそうにするイワクラの顔が浮かぶ、素敵なコンビです。踏み込めば踏み込むほど、その奥の深さに驚かされる魅力は、まるで沼のようです。皆さまもぜひハマってみてください。
岩崎う大 1978年東京都生まれ。早稲田大学卒。かもめんたるとして槙尾ユウスケとコンビを結成。キングオブコント2013年優勝。お笑い芸人だけでなく、脚本家、放送作家、漫画家として多彩に活躍中