まず、達郎氏はジャニー喜多川氏の性加害問題を知らず、性加害は憶測だと言っている。ご本人がそう言っているのなら、ご存じないのでしょう。しかし、1999年に「週刊文春」がジャニー氏による少年へのセクハラ問題を特集し、ジャニーズ事務所は文藝春秋社を名誉棄損で提訴します。2003年、東京高裁は「セクハラ行為があった」と認定していますから、ジャニー氏による性加害は“憶測とは言い切れないのです。最近では元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏、作曲家・服部良一氏の次男、吉次氏が性被害を告白し、ネットでも大きく取り上げられています。スマホさえあればすぐに調べられるわけで、結局のところ、達郎氏は「知らない」のではなく「知りたくない」か、もしくは「知っていたけど、興味がないので深追いしなかった」のではないでしょうか。

不都合な部分は見ないバイアス

 元ジャニーズ事務所所属のタレント・豊川誕は、ジャニー氏によく「勝てば官軍」と言われていたそうです。戦いに勝ったほうが正義で、負けた方が不義不忠となることから、物事の善悪は道理ではなく、社会的勝者に軍配が上がるという意味の諺です。芸能界をはじめとする人気商売は、原則「勝てば官軍」のルールで動いていると言えるでしょう。そのような世界では、数字(売上)を上げることが「正しい」こととされます。未成年への性加害はいけないことだと誰もがわかっていても、その加害者が数字を持っている人だと、性加害のような数字に結びつかないことに関しては、自分に関係ないため、つい見なかった、知らなかったことにしてしまうこともあるでしょう。また、心理学では、人は自分が好感を抱いている人の都合のいい情報ばかりあつめてしまう、不都合な部分は見ないバイアス(思い込み)があるとされていますが、数字を持っている人=いい人の芸能界では、未成年への性加害の話を聞いても「よくあるデマだ、成功者へのやっかみだ」と聞く耳を持たなかった可能性もあります。

 一方の松尾氏についても、私はちょっと疑問を感じています。なぜ達郎氏をやり玉にあげたのでしょうか? 達郎氏が社長で、達郎氏に「憶測に基づいて、性加害を批判した」と言い渡されたのなら、名指しでの批判をする権利がある。しかし、達郎氏は社長ではないわけで、なぜ社長をすっ飛ばして、達郎氏に触れたのでしょうか。