それでも、これらの歌にもやはり、大切にしたい「君」が出てくる。
「正解があるかどうかわからないですけれど、何かしら聞いている方の生活の中の一場面が思い浮かぶことがあったり、『あの時の自分の感情がそのまま歌われている』とか、そんなふうに一箇所でも感じてもらえるといいなというのが、僕の気持ちです」(NHKニュースウォッチ9「B’z稲葉浩志さんが信じる“言葉のチカラ”」)
彼らの歌はすべて日常の中にあり、共有できる。このスタンスが変わったことはない。
ファンが選んだ、意外な「神ライブ」
そして最後にもう一つ、B’zがトップを突き進む理由――。7月3日に放送された情報番組「推しといつまでも」(MBS 毎日放送)でB'zが特集されていたのだが、これがとても印象的だった。
「神ライブランキング」では、30メートル上からダイブする稲葉浩志、20キロの速さでステージをグルグル回る稲葉浩志、豪雨落雷、ステージで爆発しまくる炎といった、エキサイティングな演出&ハプニングの映像がランクイン。
そして、それらを抑えて1位に輝いたのは、2022年11月、横浜・ぴあアリーナMMで開催した「B’z LIVE-GYM 2022 -Highway X-」の千秋楽公演。『裸足の女神』(1993年)を歌いながら、ファンの寄せ書きを映すシーンだった。
その中で、カメラが壁に激突し映像がブレてしまった。そこで稲葉が、「今回は大切なものを映すので」と2度目の演奏を提案。「時間取らせちゃってごめんなさいね」と観客に謝ってから、もう一度やり直したのである。
ド派手演出ではなく、これが1位になるという結果に、ファンとの距離感が出ていてとてもよかった。ヒットチャートの先端を走る鉄人のイメージがある彼らが、ライブではまた違った魅力を見せ、それは思った以上に温かなものなのかも、と羨ましくなった。
超越したテクニックに日常を乗せ、帰るべき場所、守るべき場所を歌い、多くの人の心に灯をともすB’z。
現在、5年ぶりの全国ツアー「B’z LIVE-GYM Pleasure 2023」の真っただ中だ。7月15日、8月12日にはWOWOWにて、「B'z Live History」が放送される。
どんな景色が見えるのだろう。今こそ、改めてB’zに浸る絶好のタイミングである。
田中 稲(たなか いね)Ine Tanaka
ライター
大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人ではアイドル、昭和歌謡・ドラマ、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)、『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。