一方で、ドラマシーンを振り返るとすでに飽和状態でもある。昨今では在京阪のキー局、準キー局だけでなく、在名などローカル局でもドラマ制作を始めており、民放だけでも連続ドラマが毎クール40本以上。それらをすべて見る人はまずいないだろう。

 そこにTVerのオリジナルドラマを投入する狙いはどこにあるのか。

 小原氏は「テレビ局とドラマで競合するつもりはありません」とテレビ局が出資するTVerの立ち位置とミッションを改めて語る。

バラエティへの導線をつなげる

「TVerのコンテンツで圧倒的に人気があるのがドラマです。ただドラマファンはドラマしか見ないことが多い。そこから、コンテンツ量としてはいちばん豊富なバラエティへの導線を設けることが、本作の1つの狙いです。それは同時に現在放送中のバラエティおよびテレビ局のプロモーションにもなります」

 また毎クールの間の端境期に、オリジナルドラマを放送することで、ドラマファンをTVerにつなぎとめておくための施策にもなる。そのためのチャレンジでもある本作は、7月期と10月期のつなぎとなる9月に配信される。

 今回の企画は、ドラマに比べて視聴者数が少ないバラエティ番組への導線という、課題に対する施策の1つである。また、オリジナルコンテンツ制作という点では、TVerもしくはテレビ局にメリットがある形を取り、プロモーションとしての意味合いも強い。

 ただ、たとえプロモーションが出発点であったとしても、初のオリジナルドラマ制作は、TVerとしても大きな一歩になっただろう。民放127局の懸け橋となりえるTVerには、単局では制作できないテレビ局を横断するコンテンツ作りのポテンシャルがあり、そのノウハウを蓄積しはじめている。

 すでにローカル局を含めた多くのテレビ局から本作は注目を集めているが、ここから結果が得られれば、オリジナルドラマの強化につながっていく可能性もある。

 たとえば、今回は各局のバラエティが劇中に登場したが、新作ドラマの登場人物たちが枠と局を超えて共演するようなTVer発のドラマができれば、プロモーションだけでなく、話題性も注目度も、大きく跳ね上がることだろう。

 小原氏は、本作を通して「おもしろそうだからやってみようという機運がテレビ局に生まれたことに意義があります。5局が制作協力に入ることで、テレビ局の叡智が集まった“奇跡の座組”のドラマになりました」と力を込める。

 現在は無料広告動画マーケットで成長を続けるTVerだが、今回のような取り組みを通して、無料、有料問わず全配信プラットフォーム市場のなかでも、大きな存在になっていくことが期待される。


武井 保之(たけい・やすゆき)Takei Yasuyuki
ライター
日本およびハリウッドの映画シーン、動画配信サービスの動向など映像メディアとコンテンツのトレンドを主に執筆。エンタテインメントビジネスのほか、映画、テレビドラマ、バラエティ、お笑い、音楽などに関するスタッフ、演者への取材・執筆も行う。韓国ドラマ・映画・K-POPなど韓国コンテンツにも注目している。音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク系専門誌などの編集者を経て、フリーランスとして活動中。