目次
Page 1
ー 8時間フルタイムで働いたあと深夜にマンガ原稿を
Page 2
ー 「24時間あるうちのたった20分がんばれば変わるんだよ
Page 3
ー 『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』はダイエットに適当?

 

「同人誌を作るのは魂を削る作業……だと思っています。好きなキャラクターや作品の描かれていない部分を妄想して一冊の本を作りたい、そうすることで自分なりの理解を深めてより作品を楽しみたい。そんな前向きな気持ちではじめた同人誌作りでしたが、健康度外視で熱中しすぎた結果、気づいたときには体重が20㎏も増えていて、心身ともにボロボロになっていました。自分を見つめること、大切にすることを放棄したからだと思います」

 そう話してくれたのは、都内で会社員をしながら『ヒプノシスマイク』『弱虫ペダル』などの作品の同人活動をしている、しりでっどマンさん(30代女性)だ。

 同人活動とは、既存の作品をもとに二次的にマンガや小説などを創作し、ネット上に作品をアップしたり個人で本を作る活動のことだが、オリジナルの作品を創作するケースも。

8時間フルタイムで働いたあと深夜にマンガ原稿を

 先日、東京ビックサイトで開催された日本一の規模を誇る同人誌即売会「コミックマーケット」(通称コミケ)では、2日間で26万人の来場、サークル参加(出展ブース)は2万以上など、市場はとても大きく、ひとつの社会現象にもなっている。

 そして、同人活動をしているいわゆる“同人作家”と呼ばれる人たちは、あくまで趣味として本を制作するアマチュアなので当然ふだんの生活や仕事がある。コミケなどのイベント前には、仕事終わりに睡眠時間を削り休日も返上して原稿を作り、自分で印刷所を見つけ手配し、自腹で本を作るという、はたから見ると苦行では?という作業に没頭するのだ。

「コミックマーケット」の会場としておなじみの東京ビックサイト。今冬以降から2026年まで大規模改修工事が行われ、会場の一部が使えない状態に。運営側は「物理的な制約に挑戦していくことになる」とコメントしている
「コミックマーケット」の会場としておなじみの東京ビックサイト。今冬以降から2026年まで大規模改修工事が行われ、会場の一部が使えない状態に。運営側は「物理的な制約に挑戦していくことになる」とコメントしている

私は普通の会社員なのでイベント前は8時間フルタイムで働いたあと、22時から深夜の2時くらいまでマンガの原稿を描きます。業務内容は主に接客で、お客さまとの会話で常に気を遣いエネルギーを消費していたこともあり、“仕事もがんばったし、原稿執筆のお供に食べてもいいよね”と深夜にも関わらずポテチやアイスを食べまくる日々を続けていました。特に運動もしてなかったので、気づけば体重はみるみる増えていって身長160cmで体重は最高で93kgになっていました」(しりでっどマンさん、以下同)

 仕事終わりにコンビニに行くのが日課で、作業のお供に何を食べようか考えるのも楽しかったという。そんな生活を続けているうちに、体重は増加。見て見ぬフリをしていたが、ついに身体に異変が。右胸の下あたりに違和感を覚え、つらい腰痛に襲われるように。

「病院に行くと胆のうに石があると言われました。コレステロールの多い食事をしている人ができやすいとのことでしたが、明確な理由は分からないとのこと。手術で胆のうを全摘出することになり、職場にも迷惑をかけてしまって……。それでも原稿は続けて、まさに命がけで新刊を作り、大好きなイベントに参加したんです」

30代オタク女子のしりでっどマンさん。身長は約160㎝だが、体重はピーク時に90kgを超えた
30代オタク女子のしりでっどマンさん。身長は約160㎝だが、体重はピーク時に90kgを超えた

 同人誌即売会には“文化祭”のような楽しさがある。一生懸命モノづくりに励む準備期間があり、当日には長机がずらりと並んだ会場で販売をする。そこでは自分たちの好きな作品について語り合ったり、推しの同人作家に直接ファンレターを渡したり……。多くの時間を費やして作るぶん、完成し人に届いた時の感動は何物にも代えがたい。しりでっどマンさんもリアルで交流ができるイベントが大好きだった。

 ただ、胆のうの手術をし、直前にはぎっくり腰になりながらも作り上げた一冊を出展したイベントで、しりでっどマンさんは自分の作品に対し、心をえぐられる言葉を参加者から言われた。