彼らの共通点とは──

 なぜパラフィリアが生まれるのか。前出の斉藤氏は「特定の原因はまだわかっていない」としているが、彼らの共通点をあげる。

「私が治療に関わった患者に共通しているのは幼児期の逆境体験(ACE:Adverse Childhood Experience)です。家族からの虐待や自殺、精神疾患、学生時代のいじめ、貧困、などの被害者側を経験している人が多かった。幼いころに逆境体験を経験した人は、成人後も自尊感情が傷つきやすく自己肯定感が低い傾向にあります。

 そのため、長年内面に抱えている外傷記憶や心理的苦痛をなんらかの精神作用物質や加害行為で自己治療しようとする。もちろん根本的な原因は、個別性があるため断定的なことは言えません。このような、複合的な要素が重なり、性的な逸脱行動を反復した方が当院の外来の門をたたきパラフィリアと診断される。

 一方で、パラフィリアでも犯罪行為に及ばない人もいる。多くの人は、自らの性的欲求や性的嗜好をしっかりと自己統制、制御しながら生活しています。犯罪行為に及ぶ人はごく一部です」

 禁酒や禁煙と同じように、坂田さんもまた興奮材料を禁じているという。

 ジャニー氏のように小児性愛障害の傾向が強く出ているパラフィリアが自らの支配的欲求を満たすには、経営していた芸能事務所は絶好の狩り場だったのかもしれない。斉藤氏は、

「ジャニー氏の問題を通して子どもに性加害を行う大人の存在や、男児でも被害に遭うことを改めて知ってもらいたい。性犯罪の暗数の問題を考えると、発覚している性加害は氷山のさらに小さな一角だけ。明るみに出ない性被害はもっと奥深くに隠れているんです」

 加害者も苦悩しているのだろうが、被害者の苦痛は計り知れない。