アドリブから生まれる俳優の“素”の顔
タカハタ監督とは、二宮とビートたけしが主演したTBS年末ドラマスペシャル『赤めだか』('15年)以来のタッグとなった。
「僕は比較的、その場で、ああしよう、こうしようと話をしていくことが多いのですが、監督はちゃんと対応してくださるんです。僕だけではなくて、出演者みんな同じだと思いますが、(俳優を)信頼して自分たちの表現を自由にやらせてくれる。撮影が半分か3分の2くらい終わった段階で、監督は編集を始めていて。まだ、撮り終わっていないのに“4時間になっちゃった”って(苦笑)。できるならカットせずに使いたいという心情の人。前編・後編みたいな話をしてるから、それは、ダメだよねって話したりして(笑)」
出演者と監督の信頼関係は、悟とみゆき、悟と親友たち(桐谷健太、浜野謙太)のシーンなど、作品の随所から感じることができる。
「タカハタさん、アドリブが好きな人なので、(演者が)ずっとアドリブで話しているシーンもありましたね。あと、その日の流れをすごく重視する方なので、撮影が乗ってくると“あのシーン撮っちゃおうか”となる。みんな驚くんです。スタッフも焦っちゃって。
それでも、監督の人間力というかカリスマ性なんですかね“なんだよ”みたいな声はあがらなかった。みんなが監督の求めるものに近づいていきたいと思っていました」
悟とみゆきのデートシーンの撮影でもアドリブ好きな監督らしさが際立っていたと語る。
「タカハタさんがイメージしていたシーンを撮り終えると、“ここから自由にどうぞ”と言われるんです。なので、台本からひとひねりして演じてみる。怖いですよ、仕上がりを見るのが。どこまで打率が良かったのか(監督の期待に応えられていたのか)ってことになってくるので。そういう遊び心があるんですよね。
衝撃的だったのは、悟とみゆきが蕎麦を打つデートシーン。蕎麦粉からこねて、のばして、切って、食べる。すべての工程を撮り続けたんです。僕、途中でカメラの記録カードがいっぱいになって新しいものに替えるって、映画で初めて経験しました(笑)」
こんなに長い時間カメラを回し続けてどうするんだろうと疑問に思いながらも、面白かったと撮影を振り返る。
「監督は、悟とみゆきを撮りながら、一瞬垣間見える波瑠ちゃんや二宮が出てきたときにすごく喜ぶ人。これは狙いではなかったはずですが、みゆきのほうが蕎麦打ちが上手で、悟が“てへっ”となるパターンかと思いきや、波瑠ちゃんより僕のほうがうまかった(笑)。以前、陶芸家の見習いの役を演じたことがあるのですが、その陶芸に通じるものがあったんですよ。また、これが奇跡的にキャラクターのパーソナルな部分とリンクして。手作り模型や手描きのイラスト、手作業のぬくもりが好きな悟とつながっていったんです」
デート中に悟が紙コップを使って糸電話を作るシーンがある。少し強い風が吹く海辺で“糸電話”で会話をするふたり。
「あの場面がラストシーンにつながっていくんですよね。撮りながら思ったんですけど、いまの若い世代、例えば10代の人たちって糸電話を見てどう思うのかなって。僕と同年代の人は、懐かしいと感じる人が多いはず。もしかしたら、2~3年前にやっていたという人もいるかもしれない。
僕自身は、久しぶりに糸電話をしました。前回がいつだったかは覚えていないけれど、たぶん、“何キロ離れたら聞こえなくなるのか”みたいな番組のロケでやったんだと思うんですよ(笑)。だから、ロマンチックな感じはなかった。でも、糸電話って、なんかいいですよね」