皇室と能楽のつながりが希薄になりつつある
一方、明星大学教授で演劇評論家の村上湛氏は、皇室と能楽のつながりが希薄になりつつあるという。
「江戸時代は京都の御所に能舞台が建てられたり、能役者が雇用されたりと、宮中では能が愛されていました。また、大正天皇の即位に合わせて開かれた祝宴会で、宮殿前に豪華な能楽堂が建設されたことも。それまでの皇室にとって能は、日常に溶け込んだ生活娯楽でした。ところが昭和に入り、香淳皇后は個人的に能を愛しましたが、天皇主催の能の会は開催されず、現在に至ります」(村上氏)
そんな中、能楽と皇室をつなぐ“担い手”として期待されているのが萬斎氏だ。
「萬斎さんの父、万作さんと伯父の萬さんは人間国宝であり、文化勲章も受賞しています。そんな家系はなかなかありませんから、皇室も“自信を持って依頼できる”と信頼を置いているのだと思います」(葛西氏、以下同)
さらに萬斎氏にも、皇室や国の関連行事を引き受ける理由があるそうで……。
「彼はどんな仕事よりも能楽の仕事を優先します。映画やドラマによく出演しているイメージがありますが、能楽の仕事の合間を縫って出演しているんです。晩さん会や先日行われた文化祭しかり、多忙な身で能楽以外の仕事を引き受けるのは“自身の露出を増やすことで能楽を広めたい”との思いが強いからでしょう」
雅子さまの温かい拍手は、地道な普及活動にいそしむ萬斎氏の心に沁みたことだろう。
村上湛 明星大学人文学部教授。新聞・テレビなどのメディアで、古典芸能を中心とした演劇評論に携わる
葛西聖司 NHKアナウンサーを経て、現在は能狂言など伝統芸能に関する講演や執筆活動を行っている