がんが泣いて治るなら泣くけれど
あまりにも達観している叶井さん。ネガティブな感情を探すのが難しいほどだ。
「がんが大きくなってしまって、胃を半分切り取って小腸と直結する手術をしたんですね。だからおかゆみたいなやわらかいものしか食べられない。あと、今はまだ大丈夫なんだけど、もっと末期になると背中に激痛が走るらしいんですよね。そうなるとモルヒネの出番になるみたいなんですけど。痛いのは、嫌ですね。まあ、末期がん患者ですから。他の人よりちょっと早く死ぬだけだから」
とはいえ、倉田さんをはじめ、家族の心情は察するに余りある。
「くらたま(倉田さん)は今回、保険が利かない免疫治療の治療費も出してくれたし、感謝しかないですね。そもそも、借金まみれだった俺と結婚してくれたのがすごいよね。
(作家の)中村うさぎさんの紹介で、初めて会ったときから気が合って、この俺が結婚生活を15年も続けてるんですから。結婚してから浮気したかは『ノーコメント』にしておきますが(笑)。
今は、俺のがんのことでよく泣いているけど、申し訳ないとは思いつつ『泣いて治るなら俺も泣く』って言ってるんですけどね。
でも、娘はドライですよ。今中学2年なんだけど、部活や友達と遊ぶのに忙しいみたいだし。彼氏もいるみたいで楽しそうにしてるしね。まあ、ひきこもられても困っちゃうから、外でハジけていてほしいですね。
この前、新しい洋服が欲しいと言うので渋谷で待ち合わせて、一緒に買い物に行ったんですよ。2軒お店を回ったんだけど、俺もう体力ないから歩いていたら途中で疲れてしまうんですよね。そうしたらそれを察したのか、俺に手を置くようにと、自分の肩をすっと差し出してきてね。なんかそういったところを気遣える子になってよかったな、と思って」
これまでの出来事をすべて生きた証しとして受け入れ、“今”だけを生きる。
「あなたはひとつの人間界の『希望の光』だよね。そう思うよ」
『エンドロール!』の中で、作家の中村うさぎさんは叶井さんをこう評した。
「この世にまったく未練はない」と叶井さんは言う。
でも、その叶井さんに対して“未練を持たない”ということは、残された人たちにとってはなかなかできないことも、事実だ。
『エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の“余命半年”論』(サイゾー刊 税込み1650円)鈴木敏夫、奥山和由、岩井志麻子、中村うさぎといった、叶井さんと親しい文化人たちとの対談集。あとがきは妻の倉田真由美さんが執筆している。
(取材・文/木原みぎわ)