「証拠を残すこと」こそが自分の終活

 近年、伏見はしばしばSNSなどで、セクシュアルマイノリティの権利を求める活動に対し、苦言を呈している。そんな伏見に対し、「保守化している」といった印象を抱いている人も少なくない。しかし、伏見は自身について、「年齢を重ね、さまざまなことがわかってきて、『自分の考えは正しいのだろうか』と迷うことは、昔より多くなった。でも昔から、迷うことが大事だと思っているし、迷いながらも、自分が現時点でやるべきだと感じたことをやってきた。その生き方にブレはない」と語る。

「僕が言いたいのは『ちゃんと議論をしようよ』ということ。マイノリティだからといって、必ず正しいわけではないし、マイノリティ側の要求や言動に対して疑問を持っただけで『差別者』と言われてしまうのは、やはりおかしいと思う

 また、今、セクシュアルマイノリティに関することだけでなく、さまざまな場面できちんと議論をしないことが当たり前になりつつあること、「誰かがどこかで決めたこと」がまかり通る社会になりつつあることもつらさを感じているという。

「こうした風潮が強くなっていった先に、自分にとって安穏な晩年が待っているとは思えない。だからといって、自分の力で社会を変えられるとも思えない。ただ少なくとも自分はこのときに、こんなことを考えていたという証拠だけは残しておきたいし、そこにアクセスしやすい状態にはしておきたい。それが、僕にとっての終活だと思っている」

伏見さんが経営する『A Day In The Life』で活動する二丁目文芸部では新宿二丁目をテーマに同人誌を制作している
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<取材・文/エスムラルダ>

エスムラルダ '72年大阪生まれ。一橋大学社会学部卒業。'94年以降、ドラァグクイーンとして各種イベント・舞台公演・メディア等に出演。脚本家・歌手・俳優など多彩な顔を持つ。