「フルタイムの仕事に就かなければ、生活保護を打ち切る」
男性は「仕事を毎日探しても、パートタイムしか見つからなかった。ケースワーカーには『フルタイムの仕事に就かなければ、生活保護を打ち切る』と言われた」と記者会見で明かしている。
都会に住んでいる人には想像できないかもしれないが、群馬県の移動の足は自家用車が一般的だ。
一般財団法人 自動車検査登録情報協会が公表している2023年の都道府県別の自動車普及状況を見ると、「一人当たりの台数」は群馬県が1位。一家に一台どころか、一人一台持っていないと生活するのに窮する地域だと言える。
筆者は群馬県出身なのでその不便さは骨身に沁みている。主要の駅まで電車でたどり着いたところで、その先の移動手段に困ってしまうのだ。実家近くまで行くバスは、一時間に一本あれば良いほどだし、入院した親族を見舞おうとしたら、目的地まで行くバスの空白時間帯に当たってしまい、途方に暮れたこともある。車がなければ非常に不便な土地柄なのだ。
男性は車を持っていなかった。前橋市や高崎市ならともかく、桐生市で、持病を抱え、車を持っていない彼に、そう簡単に正社員の仕事は見つからない。
しかも一日1000円の支給では「餓死しない」程度の日常しか得られない。その状態でどんな就労活動が可能になるのだろうか。
今回明らかになった桐生市の対応の問題点は多い。
説明義務を怠っていることや、法が定めた額を支給しなかったこと、屈辱的な支給の仕方、受給者に負担だけをかけた非合理的でしかない就労指導など、違法行為や不適切行為しかないくらいだが、最大の問題は、受給者に支給しないで市でプールしていた保護費をどうするつもりだったのか? ということだ。
データが語るもの
未支給額が一定額に達したときに、受給者に支給する代わりに保護を廃止にするのではないかという疑念はあるグラフを見たときに芽生えた。
「生活保護情報グループ」という現場経験者などから構成される有志の自主的研究グループが、群馬県内の2010-2021年の保護動向をまとめてグラフにしたものだ。
桐生市の保護受給者は2011年の1163人をピークに、2021年12月時点で589人にまで減少している。館林市を除く他の自治体のほぼすべてが増加している中、桐生市と、桐生市を追いかけるように保護率を減少させている館林市は目立つ。
もっと異様な表もある。
その表によれば、桐生市では生活保護申請をした人の4割以上が却下されたり、自ら取下げているということになる。
「生活保護の申請は国民の権利」と厚労省はホームページでも謳っているが、実際に福祉事務所の窓口を訪れてもインテークと呼ばれる詳しい聴き取りが行われ、なかなか申請書は出てこないのが現状だ。
その中で申請が為されているということは、ほぼ要件を満たしていると判断されたからの筈である。なのに、なぜこれほどまでに却下になるのだろうか。同年の東京23区の却下率が4.8%であることを考えると、その異様さが顕著になる。