僧侶として、言葉で人を救った

大阪・専念寺住職、籔本正啓さん(撮影/矢島泰輔)
大阪・専念寺住職、籔本正啓さん(撮影/矢島泰輔)
【写真】妻の綾香さんと付き合い始めた頃のツーショット

 僧侶として、言葉で人を救った籔本さん。今後の目標を尋ねると、住職ならではの思いを語ってくれた。

「寺の修繕はもちろん、檀家さんがこの寺の檀家であることを誇りに思えるような寺にしていくのが、最終的な目標です。融通念仏宗はかなりマイナーな宗派なので、SNSを通じて知ってくれる人を増やしたいです。“宣伝”という言葉は、もともと宗教者が作ったものですから、私も上手でいたいですね」

 そう目を輝かせるが、自身の経験や“寺の子”という背景を考え、子どもとの向き合い方に悩むこともあるという。

「私は幼少期に父が亡くなっているので、“父親像”というのがあまりわかりません。明確な手本がないので、いつか“父親としての責務”がわからなくなるような壁にぶつかるときが来るかもしれません。もちろん、息子に寺を継いでほしい気持ちはあります。

 正直、子どもができる前は“誰か継いでくれればいいや”くらいに考えていました。たぶん、そこで僕は悩むことになるでしょうね。もし“継がずに出ていきます”と言われたときに、自分はどうするんだろうな、と。強要することはできませんから。でも、伯父が私に見せてくれたような背中を示すことができていれば、きっといつかわかってくれるかもしれない。そこで、どうするかを考えてほしいですね

 そう考える一方、心から望むことはひとつだけだと話す。

「うちが寺であることは関係なく、大前提として、やっぱり自分が生まれてきたことに関して“よかった”と思ってほしい。おそらく今後、息子は“なんで寺なんかに生まれたんだろう”と思う日が来ると思うんです。でも、いつか“生まれてきてよかった”と思ってくれれば、それでいい」

 長い歴史を持つ寺の住職として、その系譜を振り返りつつ自身の思いをこう語る。

「歴代の住職は、この寺を守るために、みなさん自分の一生を犠牲にする気持ちでやってきたと思うんです。今の時代、廃寺になるところも多い中で、ここは残すことができる寺のひとつだと思っています。100年後でも来てもらえる寺にしておきたいです」

 伝統ある“寺”と時代の最先端に触れる“SNS”を交える籔本さんの目は、尊い過去と守るべき未来の両方に向けられている。

<取材・文/近藤俊峰>