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ー 一番の課題は予算
大丸別荘公式ホームページより

「今回の件は“戒め”として、心に刻みたいと思います」

 静かな声で語るのは、'23年3月に福岡の老舗旅館『大丸別荘』の新社長に就任した外木場大倫氏だ。大丸別荘は前社長の時代に不祥事が発覚して波紋を呼んだ。

「お湯の入れ替えをしていなかったんです。'22年8月に保健所から指導があったにもかかわらず、11月の抜き打ち検査時には基準値の3700倍のレジオネラ属菌が検出されました。保健所の指導を受けても何もせずに虚偽報告をしていたことが判明し、前社長は謝罪会見後に遺書とともに遺体になって見つかりました」(全国紙社会部記者)

 後を引き継いで社長に就任したのが外木場氏だった。

「'23年の3月と4月のお客様の予約は、ほとんどキャンセルでした。それでも地元の企業や近くに住む常連客にはお越しいただき、“応援している”というお言葉をいただきました。一緒に働いている人はほとんど残ってくれて、従業員の9割は変わらない。それも本当に救いでした」(外木場氏、以下同)

 一方で、厳しい批判の声も多く寄せられた。

「批判やクレームの8割は電話で、1割は直接お越しいただいてのお言葉、残り1割は手紙やメールです。中には殺人予告的なものもありました。ただ、私がお客様の立場だったとしても言いたくなるようなコメントでした」

一番の課題は予算

 新たに定められた是正計画には、外部業者による換水清掃を毎日行うこと、再発防止のためにガバナンスを強化することなどが記されている。

「ほかの温浴施設が積み上げた信頼にも傷をつけてしまいました。私たちが先陣を切って“日本で一番厳しい制約”をかけて運営していく姿を見せていき、温泉のイメージアップをしていかないといけないと思っています」

 信頼回復はできるのか。日本の温泉事情に詳しい飯塚玲児氏に聞いた。

「一番の課題は予算でしょう。外部業者を入れて毎日の清掃、完全換水はこれまでの何倍もお金がかかると思います」

 ずさんな管理体制の温泉は、ほかにもあるという。

温泉のことをよく理解していない経営者の中には、“かけ流し浴槽でも換水は1週間に1回で大丈夫だろう”と考える人もいるようです。今回のことが温泉業界の変化につながればいいですね」(飯塚氏、以下同)

 安全な入浴のために、客の側にもできることがある。

「大丸別荘で問題になったレジオネラ属菌は人にくっついて湯に入ってしまいます。利用客は“入浴前にしっかりとかけ湯をする”という基本マナーを守るべきですね」

 大丸別荘に求められるのは真摯な姿勢だ。

「稼働率が戻ってきているのは、まじめに是正計画を実施していることが評価されているからでしょう。信頼回復は遠い道のりだと思いますが、継続していくしかない」

 温泉は安心して疲れを癒す場所であってほしい。

いいづか・れいじ 月刊『旅行読売』編集長などを経てフリーの紀行作家に。温泉入浴指導員、温泉観光士、温泉ソムリエアンバサダー。著書に『発見!ファーストクラス民宿(R)』(エムケープランニング)など