そのエピソードが示すように、彼女の成功にはさまざまな巡り合わせもプラスに働いている。
小さな事務所にスカウトされ、所属してまもなく、先輩の上野樹里が朝ドラ『てるてる家族』でヒロインの姉役を好演。父親を演じた岸谷五朗に気に入られ、大手のアミューズに誘われた。
ただ、上野が古巣への恩義にこだわったことから、事務所ごと吸収合併することになり、吉高もアミューズに移籍。その流れもあって『蛇にピアス』の主役も射止めたわけだが、決まってから数日後、交通事故で顎の骨を折り、入院してしまう。降板を覚悟したところ「治るまで待ちます」と言われ、周囲への感謝とともに、本気で仕事に取り組む意欲に目覚めたという。いわば、ケガの功名だ。
『光る君へ』の不確定要素
なお『花子とアン』は文学少女が翻訳家になる物語で『光る君へ』での役柄とも重なる。そういうところに加えて、この世代では有数の女優っぽさ、そして運を引き寄せるような「持ってる感」にNHKは懸けたのではないか。
というのも、今回の大河は戦国や幕末といった定番の時代ではなく、平安中期が舞台で派手な合戦もない。不倫モノが得意な大石静の脚本ということで『源氏物語』顔負けのドロドロとした恋愛も出てきそうだが、大河ではなじみの薄い時代を描いた『いだてん』のように数字が取れないおそれもある。不確定要素が大きいのだ。
その点、吉高には朝ドラをやった後も『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)や『最愛』(TBS系)が評価されるなど、作品運やそれをヒットにつなげる底力のようなものもある。NHKにとって、彼女は保険の利きそうな女優でもあるのだろう。
逆にコケたとしても、地道に積み上げた実績と信用があるため、彼女の責任はあまり問われない気がする。
ちなみに、私生活では玉木宏、野田洋次郎、大倉忠義らと浮名を流してきた。けっこう「恋多き女」でもあるだけに、心配なのはドラマの上を行くようなスキャンダルだろうか。
宝泉薫(ほうせん・かおる) アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。