さらにツイッターが、イーロン・マスク氏に買収されてXとなった頃から、ヘイトや不適切書込みなどへの監視が一気にゆるくなったと言われます。結果として暴言などが発生しやすくなり、今年の能登半島地震のような非常時ですらデマや不適切な投稿が多く出回りました。

 かつてのツイッターと比べると、Xユーザーの暴言や攻撃が激しくなったことを私も感じます。そうしたリスクの高いXで、松本氏は発信していました。

情報発信メディアとしてのXの価値

 マーケティング戦略において、どの媒体で情報発信するかは非常に重要です。テレビ番組のスポンサードでも、自社のCMはどの番組に出すべきかは広告代理店ではなく、スポンサー企業自身が責任を持って決めなければなりません。

 今現在も、ツイッター時代のレガシーとしてのユーザー数やそれに伴う伝播力は大きなものがあります。一方で無法地帯化ともいえる殺伐とした雰囲気は、使い方を誤れば伝播力というメリットがデメリットにもなり得ます。企業の情報発信でも、本当にX連動の必要があるのかと思うようなキャンペーンも見かけます。

 松本氏のXでの書込みは明らかに言葉足らずでした。「事実無根」という言葉が強烈かつ幅が広すぎて、真意が伝わりにくいだけでなく、自身を不利な状況に追い込んでしまった言葉だったと思います。

 説明不足なら誤解を呼び、意に反する解釈を正せば逃げたと批判される。言葉足らずな発信は、平時であれば問題はなくとも、危機時においては揚げ足取りや攻撃の燃料投下になるだけとなってしまいます。

 著名人や企業は、今回の騒動をきっかけに、ツィッターから変質したXのメディアとしての価値を考えるべきではないでしょうか。私はクライアント企業との意見交換において、この問題提起を始めています。


増沢 隆太(ますざわ りゅうた)Ryuta Masuzawa
東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家
東北大学特任教授、人事コンサルタント、産業カウンセラー。コミュニケーションの専門家として企業研修や大学講義を行う中、危機管理コミュニケーションの一環で解説した「謝罪」が注目され、「謝罪のプロ」として数々のメディアから取材を受ける。コミュニケーションとキャリアデザインのWメジャーが専門。ハラスメント対策、就活、再就職支援など、あらゆる人事課題で、上場企業、巨大官庁から個店サービス業まで担当。理系学生キャリア指導の第一人者として、理系マイナビ他Webコンテンツも多数執筆する。著書に『謝罪の作法』(ディスカヴァー携書)、『戦略思考で鍛える「コミュ力」』(祥伝社新書)など。