テレビでは毒舌キャラのちさ子さんだが、「繊細で優しい」と弘之さん。
「自分もつらかったのに僕の心配をしてくれてありがたかった。家族みんながこうやって優しいのは、長女の未知子のおかげでもあるんです」
ダウン症児の家族にとっては厳しいこともたくさんある
高嶋家の初めての子どもである未知子さんはダウン症だ。生後2か月の健診でなんの前ぶれもなく医師から告げられた。
「20歳まで生きられないと言われたときは本当にショックでした」
当時は今ほど情報もなく、家族にダウン症の子がいると存在を否定するかのように隠していた時代でもあった。
「それがいまや未知子は61歳。この60年の間にダウン症の認知も理解も進みました。支援が必要だけど、未知子らしく楽しく生きられています」
高嶋さんは、街でダウン症の人を見かけると必ず声をかける。もしかしたら迷惑かもしれないと思いつつ、それでもかけずにはいられないのだという。
「ダウン症児の家族にとっては、厳しいこともたくさんあります。だからこそ当事者にしかわからない思いを一瞬でも共有できたら、それがきっと救いになると思うんです」
社会の中で生きづらい人の視点に立ち、小さな優しさを与え合う素晴らしさ。
「それは未知子がいなかったらわからなかったことなんです」
今年で90歳を迎えるという高嶋さん。まだまだ「お迎えがくる気がしない」と笑うが、終活の準備もおこたりない。未知子さんが今後安心して暮らせる施設に入居し、そこの暮らしに慣れること、そして残された子どもたちがトラブルにならないようにお金のことをちゃんとすること。
「これができたら、もう親としての務めは終了かな」
仕事はもちろんいまだ現役で、テレビに出たり、本を書いたり、そしてジムにも通ったり、日々笑いながら過ごしている高嶋さん。
「隣に家内がいないことは悲しいけれど、彼女にはいつかどこかできっとまた会える。そのときを楽しみにしながら、もう少しこの世で“愛されじいさん”を目指すつもりです(笑)」
取材・文/野沢恭恵
たかしま・ひろゆき 1934年生まれで今年90歳を迎える。株式会社シンバ取締役兼ゼネラルプロデューサー。高嶋音楽事務所主宰。次女はヴァイオリニストの高嶋ちさ子。近著に『笑う老人生活』(幻冬舎)