父親の“仁義なき教え”

 ただ、思い描いたスターへの道は遠かった。

「なかなか望んだ仕事や役をもらえず、燻ったときもありました。同世代の染谷将太さんや菅田将暉さんとは大親友ですが、2人は10代から“売れっ子俳優”でした。一方、仲野さんはオーディションを受けるも落ち、ドラマの撮影時にスタッフからは“おまえの代わりはいくらでもいるから”と、ストレートに言われたこともあったそう。テレビで活躍する同世代の俳優を見て“顔だけだろ”と嫉妬していたこともあったと、明かしています」

 スター街道を歩む友人に、連絡できなくなったこともあった。誰にも見てもらえない。そんな悔しさばかりが募っていった。それでも腐らず演技を追求する中で、転機となったのは'21年に公開された役所広司主演の映画『すばらしき世界』だった。

「この作品で、仲野さんは日本アカデミー賞の優秀助演男優賞を受賞し、名実共に演技派の仲間入りを果たすのです」

 仲野は同作にキャスティングされたときの気持ちについてWEBインタビューで、《父親に、「誰かが必ず見てくれているから、一生懸命がんばれ」って言われた言葉を、久々に思い出しましたね》と語っている。

 父・英雄も、息子の歩みを心配して見守っていたひとり。ただ、ときには厳しく教えを授けたこともあったという。

「英雄さんは幼いころから複雑な家庭で育ち、実母と一緒に暮らしたことがなかった。だからこそ“母親は大切にするべき”という思いを強く持っているんです。小さかった太賀さんが、母親に乱暴な口をきいたときには、激怒して家からたたき出したこともあったそうですよ」(芸能プロ関係者)

 朝ドラでは、妻・寅子に夫の優三が、こう優しく語りかける場面がある。

「トラちゃんが後悔せず、心から人生をやりきってくれること。それが僕の望みです」

 愛する女性を包み込む仲野の温かみのある演技には、Vシネ俳優である父親ならではの“仁義なき教え”が生きていて─。