生涯の友との出会い
そんなエラー続きの日々だったが、生涯の友との出会いが訪れる。漫画や映画にも登場する毒舌の友人・キミツ、そして歌川さんに仲間としての温もりを教えてくれたかなちゃん&大将夫婦だ。
キミツこと清水利泰さん(60)との出会いは、『チャリティ学生ミュージカル』。同じ年頃の友達ができるかも、と受けたオーディションに合格し、そこでひときわ人気者だったのが清水さんだった。
「僕が20歳で、うたちゃんが19歳でした。彼はトゥーマッチというか(笑)、迫力があるので、どんな人か興味はあったけど、最初はちょっと遠巻きに見ていたんです。でもお互いそう思っていたのか、次第に打ち解けて」
と、当時を振り返る清水さん。歌川さんも、
「キミツはお金持ちの家で育ったから、資産家ゆえの一族のゴタゴタというか、大人の世界をいっぱい見ちゃった子どもだったのね。だから“あんた、カタギじゃないでしょ”“おまえこそ”って、意思の疎通ができた」
と、懐かしそうに語る。
だが清水さんは「漫画に描かれているほど辛口じゃないですよ。毒舌なのは、うたちゃんの前だけ、のはず」と苦笑する。
そんな清水さんに言われたことで、今でも思い出す言葉がある。チャリティ学生ミュージカルで、自身のそれまでの経験が足かせになり、どうしてもうまく歌えないときのこと。
「虐待やいじめの経験って、めったに人に話せない。“おまえも悪かったんじゃないの?”なんて言われたら、もう二度と心を開けなくなっちゃうので。でもキミツなら、と思って、話したんですよね。そうしたら、“親を憎んだり、いつか復讐してやると思っているのが、本当のうたちゃんとは思えない。もっと奥に、本当の本当のうたちゃんがいるんじゃない?”って」
ばあちゃんを喜ばせたくて絵本を描いていたときの気持ち。母がネグレクトしたときに交代でごはんを食べさせてくれたりお風呂に入れてくれた工場の人たち。つらいことばかりじゃない、そんな楽しい思い出も確かにあったのだ。
「それまでは、恨んでいる自分が本当の自分だったけど、もっと奥がある。それは人間の本質であり素晴らしいものだ、って気づいたんです。大きな転換点でしたね」