リクルートのトップ営業マンへ

歌川さんに家族の温かさを教えてくれた“大将とかなちゃん”夫妻。大将になつく歌川さんはまるで猫のよう
歌川さんに家族の温かさを教えてくれた“大将とかなちゃん”夫妻。大将になつく歌川さんはまるで猫のよう
【写真】25年連れ添うパートナーのツレちゃんとのツーショット

 時はバブルの平成元年。歌川さんはアルバイトとして入社したリクルートのトップ営業マンとなっていた。このとき、一つの大切な出会いがあった。先に紹介したかなちゃん・大将夫婦だ。かなちゃんは歌川さんの同僚女性、その彼氏が、歌川さんが大将と呼び慕う青木利人さん(55)だ。

 青木さんは歌川さんと出会った日のことを今でも鮮明に覚えているという。

「妻(当時は彼女)と地元を歩いていたら、うたちゃんとばったり会って。これから友達のところに行くというから2人でついて行ったら、その友達がキミツで、4人で一緒に飲んだんです。そのあとうちに来て、泊まることになって」(青木さん)

 そこから、バーベキューや海、スキーや横浜中華街など、毎週のように4人で遊ぶ日々が始まった。「私に青春というものがあるとしたら、この3人のおかげ」と、歌川さんは述懐する。

 青春の日々の中、青木さんやかなちゃんからも、歌川さんは大切な言葉をもらった。

「僕はどうしても自己評価が低いので、“自分のことが本当に嫌だ”って大将に言ったことがあって。そしたら、“うたちゃんって、なんでそんなに自分が嫌いなの? 俺、うたちゃん大好きだけどなー”と言ってくれた。かなちゃんも“うたちゃん、うちの子になりなよ”って。2人はすごくシンプルで素朴な言葉で、壁をぶち壊してくれましたね。なので今、2人の子になってます(笑)」

歌川さんに家族の温かさを教えてくれた“大将とかなちゃん”夫妻。大将になつく歌川さんはまるで猫のよう
歌川さんに家族の温かさを教えてくれた“大将とかなちゃん”夫妻。大将になつく歌川さんはまるで猫のよう

“ほぼ夫婦”として25年、共に暮らすパートナー

25年連れ添うパートナーのツレちゃん(右)と
25年連れ添うパートナーのツレちゃん(右)と

 歌川さんには最愛のパートナー、ツレちゃんがいる。同居を始めてから今年の11月で25周年、銀婚式を迎える“ほぼ夫婦”だ。歌川さんが当時所属していたダンスサークルに、ツレちゃんが入ってきて知り合った。

「新メンバー募集の告知に私の写真を載せていて、ツレちゃんはそれにつられたから、私のことがタイプだった。でもツレちゃんは“好き避け”をやっていて、1年くらいただのメンバー同士だったんです」

 と歌川さんは語るが、当のツレちゃんは真っ向否定。

「うたちゃん目当てじゃないですよー。ダンスがやりたくて入っただけ。でも一緒に活動していくうちに、人となりを知って好きになったんです。うたちゃんは面倒なことでも自分が損しても、みんなのために動いてくれる人。今でもずっと変わらないですね」(ツレちゃん)

 出会いから1年ほどたったころ、サークルで歌川さんの家に集まったときにツレちゃんが歌川さんに告白した。

「みんながボチボチ帰り始めても、ツレちゃんは帰らなくて。最後に1人だけ残ったときに告白されたんです。当時、私は手痛い失恋から立ち直ってなかったんだけど、すごく真っすぐガーッと告ってくるから、数日考えて、じゃあ付き合いますか、と。そしたらうちに来たまま帰らないんですよ。ずっと帰らなくて、2週間目に“親と会って”と言われて。早くない!?と思ったんだけど、“お世話になってるから挨拶したいって言ってる”って。で、行ったら“よろしくお願いします!!”と頭を下げられました(笑)」

 そこから現在に至るまでには、ツレちゃんがハードワークでうつ病になったり、リーマン・ショックで歌川さんがリストラされたり、さまざまなことがあった。そんな困難を一緒に乗り越えてきた2人。歌川さんが失業して漫画ブログを始めたときのことをツレちゃんは振り返る。

「やりたい夢があるなら、やればいいんじゃない?って。もしお金がなくなったら、自分が出せばいいと思ったし」

 漫画では、自由奔放で天然なツレちゃんとして面白おかしく描かれているが、実際は大きな愛と優しさで歌川さんを包んでいる。

「うたちゃんの魅力は、もう全部としか言いようがなくて。出会ったころのような熱烈なラブラブではないかもしれないけど、幸せにしたいし、別れるなんてことを想像したらすごく悲しくなってしまう。この間、友達がアプリでうたちゃんの写真をおじいちゃんに加工していたんです。それを見てたら、うたちゃんがおじいちゃんになってお金がなかったり困ってたらかわいそう、そんなことさせられないって、すごく思って。もしかしたら前世で私がお母さん、うたちゃんが子どもだったのかな、とか思ったりするんですよね」(ツレちゃん)

 25年の長きにわたり夫婦同然の生活を続けられた秘訣を、歌川さんは「だって猫とか捨てられないでしょ」と、冗談めかしてはぐらかす。だがそれは、きっと愛情の裏返し。法制化されたら、戸籍上でもツレちゃんと夫婦になりたいと考えているのだから。

「僕が先に逝くんだとしたら、作品の知的所有権とか貯金とか、ツレちゃんのものになってほしいですもん。あと生命保険もいまだにハードルが高いんです。ツレちゃんが僕を受取人にするとき、担当の人がすごく頑張って会社に掛け合ってくれて。長い間待たされたけど、やっと“できました!”って、泣きそうな感じで連絡をくれてね。で、“お相手の方にもご挨拶したいです”って。そのくらい珍しいんですよ、まだ。それにツレちゃんのお母さんのお葬式のときも、ご親族からやっぱり“帰ってちょうだい”って言われちゃったしね。本人たちは悲しくて何もできないからサポートしていただけなのに。結婚できないってこういうことだなって思った。だから同性婚って絶対意味があるんですよ」