娘の腕の中で冷たくなって

 そんな一卵性母娘の別れは、3年前の2021年10月3日のことだった。

それまでは、せん妄を起こして“コワイものが見える”“ソ連兵が来る!”とか大騒ぎしていたんですけれど、亡くなる直前には、すごく穏やかになりました。かわいい犬とか猫とかが見えると言って。天使みたいになりました。

 最後の日も夜中、お人形さんみたいにパッチリ目を開けてて。“痛いの?”“苦しいの?”って聞いても“ううん”とだけ。“怖いの?”って聞いたら“うん”って言う。

 私たち母子は二人とも細いので、私、介護ベッドに潜り込んでよく一緒に寝ていたんです。だから横で寝て“トモ子ちゃんがここにいるから大丈夫よ”。そう言ったら、母が抱きついてきました」

 壮絶な5年に及ぶ介護は、実にあっけなく終わった。松島は起きているつもりだったが、つい眠り込んでしまった。ふと目を覚ますと、志奈枝さんの頬が冷たい。

「時計を見たら、朝の6時20分でしたね……」

 享年100、松島志奈枝さん逝去。娘をふところに抱え、決死の覚悟で日本に連れ帰った女性は、最期の瞬間をその最愛の娘の腕に抱かれて旅立った。一卵性母娘の二人三脚が、終了を告げた瞬間だった。

大好きなお花に囲まれて微笑む母娘
大好きなお花に囲まれて微笑む母娘

芸能生活今年で75周年を迎える

 思いも寄らない経緯で足を踏み入れた、思いも寄らない世界での生活も、今年で75周年を迎える。

「これまでにも“芸能界に入りたいんだけど”と私のもとに相談にいらした方はたくさんいます。でもその全員に“およしなさい”って。

 今になっていろいろなことが表に出始めていますけど、あれ、芸能界にはあること。芸能界って怖いところです。そう思いません?」

 こうは語るが、当のご本人は今も現役バリバリの芸能人。この7月19日には東京・成城ホールでの『心に残る歌の贈りもの』と題したコンサートが控えている。

 前出の室町さんが演出を担当、見どころはいっぱいだ。

「1部はトモ子さんのおしゃべりもあれば、引っ越しで出てきた写真のスライドショーあり、CMソングのメドレーありの、『松島トモ子の歴史集』って感じの楽しいショーになる予定。2部にはミュージカルも考えています」(室町さん)