アメリカ人の善意で支えられた

 それから3年間、犬養さんは結核の療養を続け、健康を取り戻した。医療費などもアメリカ人の善意で支えられたらしい。

《私があの大病にかかわらず生きていま在るのは、アメリカのコモン・マン(普通の人たち、筆者注)のおかげである》と、彼女は綴っている。

『複十字』の記事は、《直前まで敵国であった日本人の貧しい学生、結核患者に寄せられた米国の普通の人たちの親切が語られている。(略)難民に奨学金を支給する犬養道子基金も設立した。彼女のエネルギーのもとは、若くして結核を病み、異国で多くの普通の人たちに助けられた経験があったのは間違いないであろう》と、指摘している。

 今年3月15日、東京で開催された「結核予防全国大会」で、紀子さまは次のように国内や世界の結核状況を憂え、結核根絶に向けた決意を示した。

日本における結核の現状を見ますと、罹患率は着実に低下し、2021年には低蔓延国となりました。しかし、いまだに年間約1万人以上が新たに結核を発症しております。また、80歳以上の患者の割合が全体の約4割を超えているほか、若年層では、外国出生者の割合が約8割となるなどの課題を抱えています。

 一方、世界では、WHO(世界保健機関)の推定で、1060万人が結核に罹患し、130万人が命を落としていると報告されています。2030年までに結核を終息させるというSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、国内での対策を着実に進めていくことがとても大切です」

 1939年5月、結核予防会が設立され、秩父宮妃勢津子さまが総裁を務めた。そして、1994年4月、勢津子さまに代わり、紀子さまが総裁に就任。結核予防会総裁に就任して30周年の記念日にあたる今年4月15日、紀子さまは東京都千代田区にある結核予防会本部などを訪れ、尾身茂理事長や工藤翔二代表理事、それに事務、医療職員らと懇談し、仕事内容や今後の課題などについて説明を受けた。

 2014年12月15日、成年を迎える前の記者会見で、母親について
佳子さまは「娘の私から見ると、非常に優しく前向きで明るい人だと感じることが多くございます」と高く評価した。清瀬市を訪れた際、紀子さまの「優しく前向きで明るい」人柄が多くの関係者を魅了したらしい。

 佳子さまにとって紀子さまは、身近なお手本でもある。佳子さまもまた、母親のように何事に対しても謙虚に学び続けることだろう。

<文/江森敬治>

えもり・けいじ 1956年生まれ。1980年、毎日新聞社に入社。社会部宮内庁担当記者、編集委員などを経て退社後、現在はジャーナリスト。著書に『秋篠宮』(小学館)、『美智子さまの気品』(主婦と生活社)など