大人だけが犠牲となるわけではない

「軍人や大人だけが犠牲となるわけではない。戦争は無差別に人を殺傷し、特に子どもや老人、女性という弱い立場の者がより大きな代償を払うことになる。その意味でも戦争は絶対、二度と起こしてはならない」

 と、高良さんは力を込める。ウクライナやパレスチナ自治区ガザ地区などで今でも激しい戦闘が続いていることに心を痛める高良さんは、

「対馬丸の悲劇を風化させることなく、若い世代に引き継いでもらいたい。ここ対馬丸記念館を沖縄から日本、そして、世界に向けた平和発信の拠点として充実させたい」

 と希望している。

 皇室の若い世代を代表する佳子さまは、2014年12月、20歳の成年を迎える前の記者会見で、

「祖父母としての両陛下についてですが、お若かったころのご自身の経験などをよくお話ししてくださいます。日本をはじめ海外についての歴史や自然・文化などについてお話ししてくださることもあり、学ぶことが多いと感じております」

 と答えた。祖父母から学んだ対馬丸の悲劇をはじめとする悲惨な戦争の事実をしっかりと受け継ぎ、さらに次の世代へと橋渡しをすることを私は願ってやまない。

 悲劇から80年目となる今年8月22日、撃沈時間とされる午後10時12分、対馬丸記念館屋上に集まった参加者全員が、沈没地点の方角に向けて黙とうを捧げ、亡くなられた人たちの慰霊と世界の平和を祈念した。

<文/江森敬治>

えもり・けいじ 1956年生まれ。1980年、毎日新聞社に入社。社会部宮内庁担当記者、編集委員などを経て退社後、現在はジャーナリスト。著書に『秋篠宮』(小学館)、『美智子さまの気品』(主婦と生活社)など