その後、計5回もの手術を受けて回復を待ち、半年後にはリハビリがスタートした。寝たきりの生活で落ちた筋力を取り戻すために筋トレをし、床から腕の筋肉のみで車いすに乗る練習や、1人でも日常生活を送れるための訓練を繰り返した。
両脚を切断したみゅうさんが、新たに見つけた「目標」
退院が叶ったのは事故から約1年後のこと。エレベーターのない元の高校に復学するのは難しく、やむを得ず退学して特別支援学校に移った。
中学生のころから進学したかった大道具の専門学校は、車いすの生徒を受け入れるのは難しいと言われ断念。けれど、いつか大道具にという夢を捨てきれず将来役に立つだろうと1年制のウェブデザインの専門学校に進学した。
「専門学校に通っていた時に、NHKが主催するファッションショーに参加することになりました。18歳の時です。そのショーに参加した時の違和感が、いまでも私が活動する原動力になっています」
現場で感じた障害者と健常者の間にある距離感。それを埋めるべく、自らが表側に立ち発信する立場になろうと決意。自分自身を売り込むため営業活動をし、地域で開かれる福祉関係のフェスの司会や、東京オリンピック・パラリンピック関連の仕事をこなしていき、徐々に出演依頼が増えていった。
「ただ、コロナの影響で2020年の春ごろから、予定していた仕事がほぼすべてキャンセルに。手持無沙汰になってしまい、知り合いからTikTokを勧められて動画を投稿することにしたんです。動画をアップし続けているうちに『トイレはどうするの?』とか、ふだんは面と向かって言えないであろう、素朴な疑問がたくさん届いて。私は質問されるのが嫌じゃないから正直に答えていると、実は自分も気になっていたという人がたくさんいて、どんどんバズるようになりました」
SNSのフォロワーも増え、街中で視聴者に話しかけられる機会も増えた。モデルとしても活躍の場を広げ、2022年秋のミラノ・ファッションウィーク、2023年春のパリ・ファッションウィークでモデルを務め、昨年には初の書籍を上梓するなど、着実に活躍の幅を広げている。
もうすぐパリでのパラリンピックの開催……パラリンピックはいわばみゅうさんの活動のきっかけでもあるわけだが、活動当時の2016年と比べて、健常者と障害者の溝が埋まってきたという実感はあるのか。
「私個人としては、活動をはじめたころよりかはある程度影響力もついたし、車いすユーザーのことを知ってもらうきっかけを作れているという実感はあります。ディズニーランドが好きで動画にも遊びにいった様子をあげたりするのですが、そこで『SNSで見たことあります』とか、『フォローしてます』と声をかけてもらうこともあって。
4、5歳くらいの子どもも話しかけてくれてサインがほしいと言ってもらえたのはうれしかった。やっぱり、身の回りに車いすユーザーがいることってそんなにないと思うので、手伝いたいと思ってくれても『断られたらどうしよう』とか、勇気がいるじゃないですか。
私が発信することで車いすユーザーを身近に思ってもらえたり、例えば会社に車いすを使う人が入社された時も、『動画で車いすユーザーの子を見たことあるな』と見慣れてもらうことで、心理的なハードルは下げられていると思っています」
ただ、社会として障害者や車いすユーザーが活躍できる場が増えたかというと、まだまだ理解は足りていないというのが、正直な思いだそう。
「活動する場としては、やっぱり多様性などをテーマにしたイベントや取材などが多く、例えばそういったテーマとまったく関係のないフェスなどのMCをしませんか?と呼ばれる機会はまだ少ないです。そういった意味では、まだ壁を感じます。もちろん、そうしたイベント自体を否定しているわけではありませんし、企業や学校での公演も必要なこと。けれど、障害の有無や車いすユーザーということが関係ないお仕事や活動の場がもっと増えないと、本当の意味での多様性は実現されないと思います」
一方で、みゅうさんは障害者、車いすユーザーである当事者への新たな「モデルケース」にもなりたいと話す。
「先天的でも後天的でも障害を理由に夢を諦めることがない社会のほうがいいと思っていて。特別支援学校の生徒さんらと交流したりすると、将来の夢に『アイドルやモデルになりたい』という子はほとんどいないです。最初は、障害を理由に諦めているのかな、と思っていたけど、そもそも目標になるような人がいないから、夢にならないのではと思って。
車いすユーザーを例にとると、それこそパラの選手だったり、文筆家として活躍したりする人はいるけど、エンタメ業界で『車いすのモデルといえばこの人』という人がいないので、目指しようがないのかもって。自分がそういったモデルケースになれればと思うし、いつか私を見て本当にモデルやパフォーマーを目指しました……と言う方がたくさん出てきたらと。
選手交代じゃないですけど、そういう人たちの活躍の場を増やせるような裏方業にいくのもいいですし。それまでは、まだまだ表側に立って発信を続けていきたいです」
みゅう(葦原海) 愛知県出身。2014年に事故に遭い両脚を切断、車いすユーザーに。16年、モデル・タレント活動を開始。ファッションショーに出演のほか、テレビ、ラジオ、グラビアなど幅広く活動している。著書に『私はないものを数えない。』(サンマーク出版)。インスタグラム、Tiktok、YouTubeアカウントは@myu_ashihara
インスタグラム:https://www.instagram.com/myu_ashihara/