「ボカロ曲は明らかに機械音声」のイメージは古い!

 まず「ボーカロイドの進化」が挙げられるだろう。ボカロに詳しくない人たちからすると、ボカロ曲といえば明らかに機械が歌っている声のイメージがまだ強いかもしれない。

 だがボカロの音声技術は進化しており、現在は一瞬本物の人間が歌っているようにも聴こえるレベルまで向上しているのだ。さらにボカロPたちがさまざまな技巧をシェアし合い、創意工夫を凝らしていることもあり、クオリティは格段に上がっているのである。

 また、音楽性も昔より一般的なJ-POPのように多様なものになっている。PCを使用して音楽を作成する際に、どうしても打ち込み音楽っぽさが拭いきれなかった過去とは違う多種多様なサウンド。まるで生バンドのようなサウンドクオリティが聴く人の耳にも馴染んだことも、ボカロサウンドの人気の秘訣ではないだろうか。

 それでも機械音声に違和感を覚える音楽ファンにも曲を届けたいと考えるボカロPが増え、たとえばAyaseがikura(24)というヴォーカルと出会ったように、“本物の人間の歌声”を引っ提げてムーブメントを巻き起こしているのかもしれない。

レコード会社や審査員に認められるプロセスは必要ない

 ボカロP出身のアーティストたちが人気を得やすい理由は、そもそも現代の音楽業界の“売れ方”も関係しているだろう。

 CD全盛期だった1990年代の頃は、デモテープをレコード会社に送って目に留まった者や、オーディションで勝ち抜いた者だけがメジャーデビューし、脚光を浴びていた。

 しかし、いまのアーティストたちにはYouTubeやTikTokといった、すぐ世界中に発信できるSNSというツールが潤沢にあるのだ。レコード会社社員や審査員に認められるというプロセスを必要とせず、自分らしい音楽を好んでくれるリスナーに直で届けることができるようになったという背景があり、YOASOBI米津玄師のようなアーティストが生まれやすくなったのではないだろうか。

 ――今後もボカロP出身のアーティストが続々と見つかり、シンデレラストーリーを描いていくに違いない。