ただ、収録の際は、倉田さんが森永さんを見て叶井さんを思い出し、やはり涙が止まらなくなっていたという。
「2回、3回と収録を続けるうちにくらたまさんの表情も明るくなっていき、森永さんもお元気なので安心しました。くらたまさんは知的で本質を突きます。普通の人は言語化できない部分を表現していける方で尊敬しています」
また、深田さんには、倉田さんから聞いた忘れられない言葉がある。
「『女性としての人生を本当に楽しんだ。満喫した』っておっしゃったとき、わが身を振り返り、ショックを受けました。私は仕事第一で女性らしさを捨ててきたところがあります。くらたまさんは言論で闘いながらも、女性らしさを捨てず、情が深く、愛に生きているところが素敵です。
倉田さんからは『その殺伐(さつばつ)とした生活をいつまで続けるつもりなの?』と指摘されました。叶井さんが亡くなっておつらいでしょうが、そんなに愛せる人と出会えたくらたまさんがうらやましいですし、私ももう一度、恋愛をしたくなりました」
小料理屋の女将や田舎暮らしも視野に
叶井さんが亡くなった際、倉田さんは「いい思い出しかありません。最高の父ちゃんでした」とコメントを出した。そんな倉田さんがまた新たな相手とともに人生を歩む可能性はあるのだろうか。
「そこに希望は持っていません。夫との相性があまりにもよすぎたので、ケンカしないですむ男性を探すのは難しいと思うんです。私は妹と仲良しなので、新たなパートナーを探すより、老後は妹と一緒に住むほうが楽しいかもと思ったりします」
仕事では漫画家以外の生き方にも興味を持つようになった。
「さりげなくお茶漬けを出したりするような小料理屋の女将(おかみ)とか、飲食店をやってみたいという気持ちがあります。もうひとつやってみたいのが、田舎で畑を持って、地鶏とかを飼う生活。
地鶏の卵でこだわりプリンを作って販売するのも面白そう。もちろん漫画は描きますが、やってみたいことを人生でやり尽くしてから死にたいですよね」
幸せな結婚生活を送った倉田さんには、恋愛や結婚の相談が多く寄せられるが、数多くのだめんずを見てきただけあって、安易に結婚や再婚をすすめたりしないのはさすがだ。
「私が夫に出会えたのは、宝くじに当たったようなものだと思っています。なかなか結婚で1等のくじには当たらないですし、私も最初の結婚は、衝突ばかりで失敗しています。
周りを見ていても、これまでの結婚生活に我慢を重ねてきて、夫が亡くなってのびのびしている人のほうが多いくらいですよね。合わない人と結婚して我慢しながら生きるくらいなら、絶対ひとりのほうが幸せですよ」
最愛の人を亡くした喪失感に打ちのめされながらも、鋭い弁舌は衰えていない。一方で小料理屋の女将や田舎暮らしの未来も模索している。悲しみから立ち直ったとき、倉田さんがどこに向かって歩いていくのかまったく予測ができず、やはり目が離せない面白い人なのだ。
取材・文/垣内 栄
かきうち・さかえ IT企業、編集プロダクション、出版社勤務を経て、 '02年よりフリーライター・編集者として活動。女性誌、経済誌、企業誌、書籍、WEBと幅広い媒体で、企画・編集・取材・執筆を担当している。