紅白歌合戦33回連続出場。大がかりな舞台衣装で毎年注目を集めていた国民的歌手・小林幸子。しかし事務所騒動をきっかけに大バッシングにさらされレコード会社契約解除、紅白落選という憂き目に。あれから3年、不遇の歌手人生を送るはずの小林はそれどころか若者に"神"と慕われる存在になっていた


 2月10日、風花が舞う新潟県新潟市─。市内にある市立入舟小学校の体育館で、ある催しが行われていた。新設される小学校の新しい校歌のお披露目会である。

 何台ものストーブが置かれた体育館には、380人の小学生と保護者、教師、教育関係者たちがいた。

 小学生は、市内にあった「入舟」「湊」「豊照」「栄」の小学校の児童たち。少子化の波は、この新潟市にも押し寄せ、4つの小学校が統合し、この4月から「日和山小学校」として新しいスタートを切ることになったのだ。

 新たな小学校には、新たな校歌が欠かせない。その校歌の作者として白羽の矢が立ったのは、新潟市、それも統合される栄小学校出身の歌手・小林幸子(61)だった。高らかなピアノの前奏に続いて、体育館に子どもたちの高らかな歌声が響く。

〽うれしいときも かなしいときも

心を映す 日本海

希望を胸に手を取り合える

友達にありがとう

みんなに幸せ スマイルで

元気あふれる 日和山

 10歳で歌手デビューした小林は、小学校4年まで栄小学校に通っていた。

 そもそも彼女に、作詞作曲をお願いしたいという声をあげたのは、地域の住民たちだった。その声を受け、新潟市の篠田昭市長が親交のあった小林に打診してみたのだ。

 小林が言う。

「最初はホントに私でいいのかな、と思いました。それも歌謡曲じゃなくて校歌でしょ。でも、市長の話からしばらくして正式に依頼されたときは、生徒さんだけじゃなく、親御さんも歌えるような校歌にしようと張り切ったんです」

 メロディーはすぐに浮かんできた。しかし、歌詞には子どもたちにふさわしい言葉を選ばなければならない。新潟市の教育委員会は、子どもたちに「新しい小学校はどうなってほしいか」というアンケートを行い、その結果を小林に伝えた。

「私自身の小学校時代の思い出も生かされています。友達と些細なことでケンカしたときなど、よく日本海を眺めていました。そして海が〝素直になれよ〟と言ってくれた気がして仲直りできたことなんかを思い出していたんです」

 校歌斉唱が終わり、小林がマイクに立つ。

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撮影/高梨俊浩


「鳥肌が立ちました。そしてうれしかった。今のみなさんの歌声を聴いて安心しました。素晴らしい日本、素晴らしい新潟、そして素晴らしい日和山小学校。この学校のみんなが誇りを持ってこの歌を歌い続けていってくれたら、こんなに幸せなことはありません」

 会の終了後、篠田市長にも感想を聞いた。

「3番の歌詞の『ふね入るみなと 豊かに栄え』というフレーズはうれしかったですね。統合で消えてしまう「入舟」「湊」「豊照」「栄」の名前を盛り込んでくださって。この4つの小学校のことを子どもたちは歌うたびに思い出してくれる。また、お父さんやお母さんも卒業した学校に思いを寄せてくれるでしょう。子ども時代のさっちゃんの思い出も素晴らしい。さっちゃんらしい『スマイル』という言葉も心に響きますね」