■ゆっくり育つ豊かさ
ダウン症の子どもを育てるとはどういうことなのか? 迷った奥山さんは、ネット検索であるサイトにたどり着きます。サイトのタイトルは『オランダへようこそ』。障がいのある子どもを育てるのは、“イタリアに行くつもりで準備していたのに、オランダに到着してしまったようなものだ”という内容です。
「この文章に触れて、何の涙かわからないんですけど、猛烈に泣きました。悲しい気分とは違うんですけど。意味がとてもわかると思ったんですね。私はイタリアに行くつもりで荷造りをしていたのに、着いたのがオランダで、引き返せないと言われたような気持ち。で、イタリアに行きたかったのに……とずっと思ってました。どう楽しめばいいのか? なぜイタリアに行けなかったのか? そんなことばかり思うんですが、実際行ってみるとオランダはオランダでいいところだった、と。
でも、当時はそんな境地に行き着けませんでした。やっぱりイタリアに行きたかったというところで悲しんでいたんです。でも、時間の経過とともにオランダのよさがわかった。最初はイタリアのお友達とは疎遠になっちゃうと思ったんですね。でもそんなことはなかった。障がいのある子を授かって、健常のお友達と遊べなくなるなんてことはなかった。プラスアルファ、新しい世界観が加わり、世界が広くなっただけだったんです」
美良生くんがダウン症だと知って、長男の空良(そら)くんは泣きながら崩れ落ちたという。でも、「僕の弟は成長がゆっくりだから可愛い時期が長いんだ」とすぐに立ち直ったそう。ゆっくり育つ美良生くんは、奥山さんにどんな影響を与えたのだろうか。
「成長がゆっくりなぶん、本当にひとつひとつに感動するんです。長男のときは、本当に瞬く間に育児の時が過ぎていったんですね。健常の子どもだと、それはそれで悩みがあって、早くオムツが取れないかなとか、早く歩かないかなとか。
でも、美良生くんの成長は、それとは違うとらえ方をしています。比較しない子育て。健常の3歳とできることが違うので、もう比較のしようがないんです。健常の子だとどうしても比較しちゃうんですけど、そうではなくて、その子をそのまま見てあげるという幸せを知りました。美良生くんがきてくれたおかげでわかったのは、比べるって誰も幸せにならないってこと。本当に、生きてるだけで100点満点なんだと教えられました」
(取材・文/ガンガーラ田津美)
■取材後記
奥山さん一家は、ヘアメークアップアーティストのパパ、長男の空良くん(小6)、次男の美良生くん(3歳)の4人家族。奥山さんによると、パパは「本当に怒らず、感心してしまう」そう。空良くんは「普段は頼りないけど、いきなり核心をつく」んだそうです。楽しい一家の暮らしは、イラスト満載のブログ『奥山佳恵のてきとう絵日記』でチェック!