“生存者バイアス”という思い込み
「会社にいる人にパワハラがあったのかどうか聞いたら、そうでもなかった、もしくはパワハラはなかった」という調査結果が出ることにもバイアスが潜んでいます。
被害を訴えて会社をやめたり、休職する人がいる一方で「パワハラだったかもしれないけど、大丈夫だった」とか「パワハラにあわなかった」と証言する人がいるのはなぜかと言えば、生活のために我慢したとか、パワハラ上司の報復を恐れてという可能性もありますが、今、会社にいる人は、パワハラがそこまで苦痛ではなかったから、会社をやめないで済んだ、つまり「大丈夫だった人の集団」と考えることもできるはずです。
「大丈夫だった人」に話を聞けば、大丈夫と答えが返ってくるのは当たり前のことです。過酷な環境を生き抜いた人たちに話を聞くと「そうでもなかった」とか「なかった」という答えが自然と集まってしまうことは「生存者バイアス」と呼ばれています。
このバイアスが働くと「私は大丈夫だった」という証言ばかりが集まるので「パワハラ的な行動はあったのかもしれないが、度を越したものではなかった」と被害そのものを矮小化したり、「被害を名乗り出た人のメンタルが弱かったため、パワハラと解釈された」というふうに被害者に非があるような結論に行き、二次被害につながっていく恐れがあるのです。
競争の激しいテレビの世界で、フリーランスの立場で二十代からずっと第一線で活躍してきた安藤さんは、運と才能に恵まれた“スーパー生存者”と言えるでしょう。報道だけでなく、現在は大学で教鞭をとられているのも、その奇跡の生存者の経験が、若い世代にとって希望であり、有用とされているからでしょう。
しかし、スーパー生存者だからこそ、見えないものもあるのではないでしょうか。テレビの中の女性の“格差"を見せつけられた気がして、やるせなくなるのでした。
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」