「自分の演技があまりにもひどいので、スタジオで号泣しちゃいました」
『ヤヌスの鏡』の主演に抜擢されたのは、雑誌『Momoco』(学研)にスカウトされて、芸能界入りした半年後の16歳のときだった。
「正真正銘のド素人ですよ。ですが、演技や発声のレッスンはドラマの撮影が始まってから通い始めたんです」
撮影が始まっているため時間に余裕はなく、そうそうレッスンには通えない状態が続いた。そのうえ、杉浦が演じるヒロインは合気道の達人という設定だったが、
「私はおそろしいほどどんくさくて、運動は苦手で、もちろん合気道なんかやったこともありません」
合気道のレッスンに通うはずが、撮影が前倒しになって、それもできないまま本番に突入となった。合気道もさることながら、中学を卒業したばかりで、初めてお芝居を経験する少女は“演技”というものがどういうものなのかも、まったく理解できていなかったのである。
NGが出ても何がダメなのかわからず、監督に「もう1回」と言われれば、何も考えず素直に何度も同じ演技を繰り返すだけだった。
「同じ演技を何度も繰り返すというのはとても難しいんです。多少イントネーションや間が変わっちゃいますから。ある意味、それがすごく勉強にもなりました」
当然ながら大映ドラマの真骨頂である難解なセリフは、はなから理解できていなかった。こんな会話はしそうもないなと多少の違和感は覚えても、それを口に出して言える勇気はなかったという。
加えて『ヤヌス~』のヒロインは“多重人格”というややこしい設定。
「ヒロインの昼の顔は良家のお嬢さまという設定で、そこに大映ドラマのテイストが加わって、ありえないほど丁寧な口調なんです。反対に夜はこれでもかというほど乱暴な口調で不良を演じなければならないんです」
単にセリフを覚えるだけでなく、人格の切り替えを演じなければならず、16歳の新人女優には大きなプレッシャーとなっていた。それでも撮影はすべりだしていた。
しかも放送開始まで時間がなかったことから第1話と第2話を並行して撮っていたため、彼女はどこの場面がどうで、セリフがどうで、ヒロインの心理的な起伏やつながりをまったく理解できなかったという。
「昼間のお嬢さまがおとなしく、夜の不良がハッチャケているくらいの分け方しかできませんでした。それで第3話を撮っている途中に、初めて完成前の第1話を見たんです」
それがスタジオで大泣きする事態に。そのときの気持ちを、こう語っている。
「ひどいというか、正直ヤバイと思いました。これがテレビで流れるのかと思うと、恥ずかしいのと、情けない気持ちでいっぱいになりましたね。それからは真剣に勉強して、演技に集中しました」