――足立監督自身が日本赤軍に身を投じて海外に渡り、60歳を過ぎてから再び映画を撮り始めた人。出演オファーには即OKしたのですか?

「いや、やっぱり躊躇しましたよ。桐島を映画化するっていうだけで騒ぐ人もいるし、ネット右翼がウヨウヨして何をやっても批判の的になる。この役を進んで引き受ける俳優は少ないと思います」

――それでも出演したのは?

監督に会わずに断るわけにはいかないと思って、会うだけ会って“僕みたいな俳優を使っていいんですか? 政治的な発言で批判されたりもするんですが、そういう色がついてない俳優のほうが、作品のためにもいいんじゃないですか?”って言ったんです。

 でも足立さんはその議論に興味がなかったようで“で、脚本はどうだったの?”って聞くから“面白かったです”って言ったら、こうやって(スッと右手を差し出す)されたんで握手するしかなかった。足立正生という男に一目惚れしてしまったんです」

――最後、桐島は末期がんで亡くなります。逃げ切ったと思っていいのでしょうか?

「ある種のハッピーエンドとも受け取れるように撮ってはいますね。しかも、これはぜひ劇場で見てほしいんですが、死んでも“まだまだ戦い続けるぞ”みたいな決意まで表明している。そこが足立正生のすごいところですよね」

『逃げ恥』でつながった縁

――名バイプレーヤーとの評価が定着しましたが『逃走』は主演ですし、ドラマの『コタキ兄弟と四苦八苦』(2020年)では滝藤賢一さんとダブル主演でした。

「そうですね。あれは滝藤くんだったから話が進んだし、脚本が野木亜紀子さん。野木さんとは『逃げ恥』(2016年/バーの店主役で出演)からのご縁ですが、僕が昔出た舞台も見てくださっていたらしく、それで連絡先を交換して仲良くなったんですよ。

 そういう流れでお願いしたら“タイミング合えばいいですよ”と。もう野木さんがグワーッて(急上昇の)ときだったんで、僕にとっても本当に奇跡的な作品の一つです
 
――お話に出た『逃げ恥』も評判を呼びました。

「すごい大ヒット作で、そこに僕が入れたこともラッキーでした。ほかのことで忙しかった時期でお断りした可能性もある。たしかに『コタキ〜』は『逃げ恥』をやってなかったらなかったですね」

古舘寛治が主演した映画『逃走」 (C)『逃走』制作プロジェクト
古舘寛治が主演した映画『逃走」 (C)『逃走』制作プロジェクト
【写真】映画『逃走』で桐島聡役を演じた古舘寛治

――星野源さんとは映画の『箱入り息子の恋』(2013年)でも共演しています。

「ですね。でも、沖田くんの映画『キツツキと雨』(2012年)で主題歌を歌ってくれたのが先です。長いこと続けているといろんな出会いがあって面白いですよ」

――ロバート・デ・ニーロは映画『ジョーカー』でも名演技を見せました。今、昔憧れた彼を見ると、どんな思いになるんでしょうか?

「それはもう素晴らしい俳優だし、その方が今も現役であんだけ元気でやっている。まさに足立さんぐらいの年齢かな。アル・パチーノもそうですけど、みなさん80代。本当にすごいなと思います」

──ほかにも古舘さんを特別な気持ちにさせてくれる存在はありますか

「この間ノブさんと久しぶりに会って、初めて東京のNOBU(港区虎ノ門)で食事をしたんです。NOBUは世界各国に50店舗くらいあるんですが、彼も70代かな(76歳)。めちゃくちゃ元気で。

 そういう先輩たちがいるのはちょっと希望だなと。デ・ニーロもそうだし、ノブさんもそうだし、足立さんもそうだし。僕もまだまだ頑張りたいなと思っています」

名前をかえ別人として生きた49年間の『逃走』を大胆な創作を交えて描く映画『逃走』 2025年3月15日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開 監督・脚本:足立正生 出演:古舘寛治/杉田雷麟 中村映里子 (C)「逃走」制作プロジェクト2025 公式HP:https://kirishima-tousou.com

取材・文/川合文哉 撮影/佐藤靖彦