視力が回復したことで、より意欲的に日々を送っている。

「舞台演出では照明を丁寧につくり込むのが好きなので、一段と美しい舞台をつくっていきたいですね。役者たちは僕がまた細かいことを言い出すんだろうと怖がっていますが(笑)。白内障の手術を受けるか否かは“自分がどんな人生を歩みたいか”に尽きると思うんです。

 多少見えにくくても構わない方は、無理に手術をする必要はないかもしれません。ただ僕の場合は夜空を見て感動したいし、美しいものを見て幸せだと感じたい。死ぬまで五感を磨き続けていたいんです。それを叶えてくれた技術の進歩に大感謝ですし、人生をより味わいたい方は、手術を受けるのも選択肢のひとつだと思いますね

予防でいちばん差が出るのは60代

 白内障は50代の約半数、80代では99%が罹る身近な病気で、日本では年間150万件以上もの手術が行われている。手術を受けるタイミングや注意すべき点について、眼科医の平松類先生に話を伺った。

白内障の予防でいちばん差が出るのは60代です。紫外線を浴びた量や目の酷使度合いによって、手術すべきか否かが変わってきます。日本では70代で手術をされる方が最も多いのですが、これは40代から始まった老眼の進行が70代で止まるので、目のピント調節機能などの状態に変化がなく、術後の経過もよい場合が多いからです

 目安としては視力が0.3~0.5を下回ったときは手術を受けたほうがよいそう。

白内障がかなり強い状態なので日常生活に支障が出ますし、放置すると悪化し、超音波乳化吸引術という水晶体を砕いて吸引する施術の際に強い力を加える必要があり、場合によっては角膜内皮細胞が弱くなったり、負荷がかかるリスクが生じるからです

 手術を受ける際にも、患者が気をつけるべきポイントが3つあるそう。

「1つ目は、目をつぶろうとしないこと。ベル現象といって、人は目をつぶると黒目が上を向くんです。目を閉じようとするだけでも上向きになり、手術できる範囲が狭まってしまいます。2つ目は、強くいきんだり力を入れないこと。力を加えると眼圧が上がってしまい、新しいレンズが入りにくくなることがあるんです。

 緊張すると血圧も上がりがちなので、深呼吸をしてできるだけリラックスしましょう。3つ目は、目をきょろきょろ動かさないことです。何が起きているのか見たくなったり、強い光を当てながら手術をするので、真っすぐ前を見続けるのは眩しいと思います。ですが、眼球が動くと手術の難易度が上がってしまうので、我慢しましょう

 もし視力の低下が気になったら、過度に手術を怖がらず、早めに眼科医へ相談してみよう。

取材・文/小野寺悦子

みやもと・あもん 演出家。1958年、東京・銀座生まれ。2004年には東洋人初の演出家としてオンブロードウェイにて『太平洋序曲』を上演し、同作はトニー賞4部門にノミネート。ミュージカル、ストレートプレイ、オペラ、歌舞伎など、ジャンルを問わず幅広く作品を手がける。