歌手の高橋ジョージとタレントの三船美佳夫妻の離婚騒動。その原因と報じられたのが『モラル・ハラスメント』。2人の場合がそうであるかどうかは、今後の裁判で明らかになるが、妻を管理下に置き、発言や行動をがんじがらめに拘束する“モラ夫”は世に少なくないという。

 自らの壮絶な体験をまとめた『夫からのモラル・ハラスメント』(河出書房新社)の著者・まっち〜さんは、会社の部下だった5歳年下の夫(当時26歳)と、半年間の交際を経てゴールイン。

「結婚がこんなに幸せなものとは誰も教えてくれなかったな、と思うくらい幸せでした」と甘い新婚生活を振り返る。

 だが、満ち足りた日々はやがて“モラハラ地獄”へと転落していった。兆候が現れ始めたのは、第1子を出産した半年後のこと。

「私の外食は禁止。電子レンジで食事を温め直すのも禁止。化学調味料は嫌いだからだしをとる、寝る前に話しかけるのは禁止……」

 夫が次々に、異常なルールを押しつけだしたのだ。なかでも、夫の幼児性と残虐性が顕著だったのは、“マヨネーズ事件”だ。

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「常日ごろ“俺はマヨネーズが切れたら暴れるからな!”と脅されていました。うっかり切らせてしまったときは、もう……すごく怖かったですね。1度怒り出せば、長くしつこい攻撃が始まります。物を壊す、廊下が抜けそうなくらいの大きな足音を立てる、にらみつける、無視する。“俺はお前のせいで機嫌が悪い”とアピールしてくる」

 当初、まっち〜さんは、

「“また自分のせいで怒らせたんだ”と思い、機嫌をとろうとしたり、怒りを大きくしないように自分の気配を消そうとしましたね」

 そんなことはおかまいなしに、夫は増長を続けた。

「テレビを見ているとき、新聞を読んでいるとき、ご飯を食べているときは話しかけ禁止。“外で働いてきて疲れているのに、飯食うときくらいくつろがしてくれ! なんでそんな配慮ができんのや!”とボロカスに言ってくる」

 まっち〜さんが選んだ対処法は、黙って聞き入れること。

 そのうち夫は「お前に話しかけるエネルギーがもったい ない」と一方的に宣言し、とんでもない行為に及んだ。

「ご飯のおかわりも、何か取ってこいという命令もジェスチャー。禁止事項を破ろうとすれば、手のひらを顔の前に突きつけてくる。それで、あぁ、これも禁止だったなって気づくんです」

 透明な拘束服を着せられているような日々は、まっち〜さんの心を少しずつ、だが確実に蝕んでいった。

「食後にタバコを吸っているときだけは、話しかけるのが許されていました。その瞬間に駆け寄っていって、子どもたちの近況などを伝えます。タバコを吸い終わり、火をジュッと消したら終わりの合図。また手のひらをパッと広げて、話を制止されます」

 自分の都合だけでセックスを求め、避妊もしない。その結果、訪れた望まない妊娠……。

「3人目を妊娠して、流産したのが2002年春。悲しくて落ち込んでいました。その時期、夫は朝帰りを繰り返すようになりました。女です。私は外食禁止なのに、自分は女性とフランス料理。問い詰めたら、“俺も流産して悲しかったから、外で発散してきたんだ”って……。精神のバランスが歪みました」

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 しばらくして4人目を妊娠し、またもや流産。うつ症状で寝たきりになりながらも“私がルールに従っていれば、夫は居心地がいいんだ”と相手の要求を聞き続けた。息苦しさが心の中で異臭を放ちだす。ある日、限界が……。

「家の廊下ですれ違うときに、パッと避けられたんです。“どうして避けるの?”って聞くと、“俺は1メートル以内に近づかれるのは嫌なんや”と。流産後の1か月間、夫の1メートル以内には入らないように過ごしました。“快適?”と聞くと、見たことのないような笑顔で“お前のおかげで快適や! ありがとう!”と言われました。そのとき、ガラガラと何かが崩れましたね」

 食欲はなくなり体重は10キロ減。流産のショックだと思っていたが、夫に追い詰められた結果だった。原因を探るうちに遭遇した“モラル・ハラスメント”という言葉。これって私のこと? 涙が止まらなかった。その晩、帰宅する夫のことを考えると突然、恐怖に襲われたという。

 カウンセリングを求め『心の相談室』に電話をかけた。「あなたはライオンと檻の中で生活しているのと一緒だから逃げなさい」。そうはっきり言われ、決意を固めた。

「家を出た後で離婚を言い渡すと、花束やケーキ、ラブレターの贈り物で引き戻そうとしてきました。結局、弱い男だから私をサンドバッグにすることで精神のバランスを保っていたんです。別居後、経済的にもしんどくて、夫も反省しているみたいだし、戻ろうかな……と揺れたことがありました。でも、やっぱりこの人は変わらないと思って、離婚に突っ走りました」

 後に再婚し、現在は“モラハラ生活”とは無縁の幸せな日々を送っているという。