■自立を妨げる仲よし親子の実態
10代の子どもを持つ親から、日々たくさんの相談を受けるという“尾木ママ”こと教育評論家の尾木直樹さん。思春期を迎えた子どもの反抗に戸惑いを感じ、途方に暮れる親は多いものですが、それは自立への第一歩であり、喜ばしい現象なのだそうです。
「ところが、このごろ反抗期がない子どもが増加中です。いくつになっても親とラブラブ、“私たちは仲よし親子です”と誇らしげな親が、多数派になりつつあるの。実はこれ、とてもこわいことなんですよ」
反抗期がないということは、自立への一歩が踏み出せないということ。思春期を過ぎて反抗がおさまり、その後に仲よし親子になるのならともかく、ずっと仲よし、ずっと親にとっていい子という関係は、とても危ういものなのです。
尾木さんの最新著書『親子共依存』では、信じられないような親子の密着ぶり、頼り、頼られすぎの実例が数多く書かれています。特に顕著なもののひとつが、思春期を過ぎても異性の親とお風呂に入るというケース。
「中学2年生の男子の2割が、いまだに母親と一緒にお風呂に入っているというデータがあります。でも、お風呂というのは最もプライベートな空間で、性的な特徴も見えてしまうもの。“同性であっても一緒に入るのはどうかな?”と疑問に思ってほしいですね」
子どもの自立の4つの柱は、性的自立、社会的自立、精神的自立、経済的自立。“一緒にお風呂に入る”という行為は性的自立を妨げるものであり、子どもの性を尊重していないことにつながります。すると、自他の性の尊重や性的アイデンティティーの認識が歪(ゆが)む可能性もあります。
「日本が児童ポルノに甘いのも、子どもの性を尊重していないから。自分の子どもであっても、一個人として見なすべきなんです」
また大学教授でもある尾木さんは、親にスマホで指示を仰ぐ学生がここ数年で増えてきていることに気がついたといいます。
「ランチのメニュー選びから就活セミナー会場への行き方まで、親にLINEで答えをもらっているんです。そもそも今の大学ってすごいんですよ。入学式には親や祖父母がドーンと来るし、どの授業を選択するかを申し込む、履修届にまで口を出す。さらには授業参観をすれば、廊下にまで人があふれるほど親御さんが駆けつけ、息子の発表に親が質問するなんていうことも。これでは精神的自立が果たせませんよね」
仲よきことは美しきかな——。しかし、やはり過剰なまでの仲のよさは、本のタイトルどおり“共依存”としか思えません。