金の持ち逃げ、愛人トラブルなど夫にダマされた妻も増えているという。
夫が亡くなったあとに裏切りがわかったケースもある。晶子さん(63)の夫は4年前に末期がんと診断され、1年後に亡くなった。晶子さんに代わって35歳の娘・春香さんが話をしてくれた。
「通夜の席に30代後半の女性と5歳くらいの男の子がやって来たんです。お焼香のとき、どこかほかの弔問客と様子が違っていて。子どもが小さい声で、“パパだ”と言ったんです。その瞬間、母が立ち上がって、彼女につかみかかった。あわてて私たちが止めました」
その女性は夫の愛人で、子どもは夫の子だった。
「父はその子を認知していたようです。仕事の関係でよく行っていた北陸で知り合った女性らしい。母は、うすうす怪しいとは思っていたようですが、まさか子どもまでいるとは思わなかったと。その女性は別に金銭を求めて来たわけではなかった。“とにかくお焼香をさせてほしいだけなんです”と泣いていました」
春香さんは冷静だった。お葬式を終え、ショックのあまり寝込んでしまった母の気持ちを慰めながら、父の愛人のことを考えていた。
「四十九日のとき、こっそり父の愛用していた万年筆とベルトを隠しておいて、後日、彼女に届けたら、泣いて喜んでくれましたね。母は訴えてやると言っていましたが、父が遺した財産はごくわずか。相手の女性はお子さんの法定相続分も放棄したんです。父の遺産整理は私がしたので、結局、相手のお子さんの学資として少しだけ渡しましたが、母には内緒です」
一般的には多少の疑いがあっても家庭に波風を立てたくないと思うもの。だが、疑惑を抱いたまま生活を続けていくのもつらい。
「10年前、20年連れ添った夫が預金を全額引き出し、女と逃げたんです。なんとなく、おかしいとは思っていました。でも、黙って待っていれば戻ってくると信じていたんです」
登美子さん(60)は、少し遠い目でそう語った。証拠を探そうとはしなかった。ただひたすら、「そんなことがあるはずはない」と言い聞かせたのだという。
「その後、1度は夫が戻ってきたんです。私もやり直そうと頑張りました。だけど亀裂が入った関係は無理ですね。一方で、一緒に逃げた女性とはまだ続いていた。結局、4年後に離婚しました。もっと早く決断したほうがよかったのかなと思うこともあります」
今はひとりきりでアパート暮らしをする登美子さん。我慢して離婚が遅れたぶん、次の人生に踏み出せなかったと振り返る。
取材・文/亀山早苗。ノンフィクション作家。男女、恋愛、性の問題等をテーマに執筆活動を行う。近著に不倫妻66人の告白本『妻たちのお菓子な恋』(主婦と生活社)ほか。