福島第一原発事故から5年の節目が間近に迫った先月24日、ある事実が発覚した。これまで東京電力が「ない」としてきた、核燃料が溶け落ちるメルトダウン(炉心溶融)の判定基準が記されたマニュアルを今になって「発見」。「気づくのに5年間かかった」というのだ。
マニュアルに基づけば、事故から3日後の'11年3月14日にはメルトダウンを判定できたとしている。こうした東電の態度をエネルギー問題に詳しいNPO『環境エネルギー政策研究所』所長の飯田哲也さんは「口実までしらじらしい」とバッサリ。
「事故の翌日、原子力保安院の中村審議官(当時)がメルトダウンしたと口走って更迭されたことからもわかるように、3日後どころか11日夜には予見できた。今回の新事実はというと、福島事故の検証を進める新潟県技術委員会に追及されて、ようやく出てきたもの。ウソでごまかす体質は根本的に変わっていない」
マニュアルを作るときは合理的、科学的に作るものの完成したルールを守らない、と飯田さんは指摘する。
「'99年の東海村JCO臨界事故はバケツでウラン溶液を運んでいましたが、同じ作業を繰り返すうちに慢心してルールをすっ飛ばす。想定外の事故なんか起きるわけがないという“安全神話”が原子力ムラ全体に蔓延しています」
さらにここへきて、もっと重大なマニュアル無視の疑惑が浮上してきた。
「参照すべきマニュアルを参照しなかったことで福島原発の事故被害を拡大させた恐れがあります。マニュアルに従い適切に対処していれば、2号機、3号機はメルトダウンを回避できたのではないか」
そう指摘するのは『社会技術システム安全研究所』主宰の田辺文也さんだ。『日本原子力研究開発機構』の上級研究主席を務めた技術者でチェルノブイリ原発などの事故解析を手がけてきた。
「東電は原発事故が起きたときの対処法を記した『事故時運転操作手順書』というマニュアルを用意しています」
手順書は事故の深刻度順に3種類。まず配管の破断や電源喪失など、何か起きたときにどうすればいいかを書いてある『事象ベース』。
何が起きているかわからなくても、格納容器の圧力上昇や電源を失って水位が測れないなどの徴候をもとに、何をすべきかガイドしている『徴候ベース』。そして炉心溶融事故への対処法を記した『シビアアクシデント』があるが、「炉心溶融を防ぐための、肝心の徴候ベースを事故時に参照した形跡がない」と田辺さん。
さらに故・吉田昌郎福島第一原発所長(当時)みずから政府事故調の聴取に応じた際の『吉田調書』で、事故対応がシビアアクシデントに跳んだと証言している。
福島原発は津波で最終的に全電源を失い、原子炉を冷やし続けることに失敗して温度が上昇し続け、核燃料が溶けて1~3号機までメルトダウンに至った。
「1、2号機はバッテリーと電源盤が水に浸かって使用不能になり、水位が測れず水位不明になった。メルトダウンが起こらないようにするには徴候ベースの手順書に従って、まず、逃がし安全弁という装置を開けて原子炉の圧力を下げ、それから注水しなければならなかった」